第11話
兵たちのすぐそばに近づき、馬車が止まった。
もちろん、馬が勝手に止まったわけではなく、御者が止めたのである。
私は、自分の鼓動が速くなっているのを感じた。
殿下の表情を見ると、彼も緊張しているのが伝わってきた。
「旅の邪魔をしてすいません。実は、我々はある人物を捜しているのです。この国の第四王子であるエミリオ殿下なのですが、見ていませんか? もしわからなかったら、殿下の写真もあります。最近、馬車に乗せたりしませんでした?」
兵が御者に写真を渡して質問した。
なるほど、遠くに行くには馬車しかないから、御者に聞いて回っているのか。
でも、殿下の変装は完璧だ。
人相どころか、性別まで変わっている。
もちろん、見た目の話だ。
完璧な変装だから、バレているはずがない。
しかし、鼓動はどんどん速くなっていた。
「いえ、見ていませんね。殿下が、どうかしたのですか?」
御者が写真を返しながら答えた。
「いえ、見ていないのならいいのです。さあ、どうぞ、行ってください」
私は大きく息を吐いた。
あぁ、助かった……。
いくら完璧に変装していても、こういう場面は緊張してしまう。
でも、バレずに済んでよかった。
御者は馬車を走らせようとした。
しかし、その時……。
「少し待ってください」
兵が御者に行った。
また、鼓動が速くなる。
何か、怪しまれた?
「そこの美人な二人のお客さんにも、一応聞いておきます。エミリオ殿下を見ていませんか? どこかの町で見かけたとか、そんな噂を聞いたりしませんでした?」
「いえ、見ていません」
私は努めて冷静に答えた。
「私も見ていません。そんな噂も、聞いたことがありません」
殿下も答えた。
緊張して男の部分をさらけ出すこともなかった。
誰が聞いても、違和感のない女性の声である。
「そうですか、わかりました。ご協力ありがとうございました」
私はほっとした。
しかし、悟られないように表には出さなかった。
「あれ? ちょっと待ってください。あなた……」
兵が、私の方をじっと見た。
え、なんなの……。
私、何かやらかした?
「あなた、この前、宿屋であった女性ですね?」
え……。
ああ、よく見たらこの兵は、以前に私の部屋に現れた兵と同一人物だった。
もしかして、何か、怪しまれたの?
「あ……、この前、部屋に来た方ですね。お久しぶりです」
私はかなり緊張していた。
それが表に出ないようにするのに必死だった。
「先日は失礼な態度をとってしまい、申し訳ありませんでした。どうぞ、楽しい旅を」
「ええ……、ありがとうございます」
あぁ、緊張した。
兵は、先日の無礼を改めて謝るだけだった……。
今度こそ、馬車は走り出そうとした。
しかし……。
「ちょっと待ってください!」
兵がものすごい剣幕で詰め寄ってきた。
しかも、私の方ではなく、殿下の方に……。
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