第12話
ああ、終わった……。
これは間違いなく、何か決定的なことに気付かれた。
そうでないと、兵がこんな剣幕で迫ってくるはずがない。
殿下は、王宮に連れ戻されてしまうのかな……。
政治的な交渉のための道具にされるのが嫌で、せっかくここまで逃げて来たのに。
私がもっとうまくやっていれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。
でも、後悔してももう遅い。
殿下は王宮に連れ戻され、逃亡に協力した私は……。
え、私は……、どうなるの?
うーん、注意だけで済むのかな。
軽い注意でも厳重注意でも、注意だけで済むのなら甘んじて受け入れる所存だけれど……。
まあ、普通に考えれば、注意だけで済むはずがない。
えっと、投獄されるのかな?
その前にこの馬車を奪って、東国に逃亡しようかな……。
まあ、そんなことをしてもすぐに捕まるのは目に見えている。
それなら大人しく捕まった方が、罪は軽くなるはずだ。
……でも、逃亡に協力したというのは、それだけでもかなりの重罪のような気がする。
もしかして投獄ではなく、死刑かもしれない。
もしそうなったら、どうしよう……。
せっかく新しい人生を始めようと決意して、旅立ちしたばかりなのに……。
このままでは、違うところに旅立ってしまう。
いやいや、何を勝手にあきらめているの。
まだ何か、手はあるはず……。
私は殿下の方を見た。
殿下は、この状況でも、顔色一つ変えずにじっとしていた。
何か、考えがあるのだろうか……。
とりあえず私は、成り行きを見守ることにした。
「そのまま、動かないでくださいよ」
殿下に詰め寄った兵は、剣を抜いた。
しかし、剣を抜いたといっても、鞘から抜いたわけではなく、鞘をベルトから抜いただけだった。
いったい、どうして……。
そうか!
鞘から剣を抜けば、殿下を斬ることになってしまう。
だから鞘に刺したまま剣を振り、殿下を気絶させるつもりなんだ。
それ以外、考えられない。
私は身体に力を入れた。
兵が剣を振りかぶった瞬間、突進するつもりだった。
しかし、私なんかが突進して、いったい何ができるっていうの?
剣術の心得なんてないし、武道の心得もない。
舞踊を少し齧っている程度だ。
しかし、そんなものは何の役にも立たない。
それでも、何もしないよりはましだ。
私が暴れたら、その間に隙ができて、殿下が逃げることができる。
やるしかない。
私は覚悟を決めた。
兵が鞘に収まった剣を殿下に向けた。
殴って気絶させようとしているのなら、一度剣を振りかぶる必要がある。
そこが狙い目だ。
私は、兵の動きに集中した……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます