第10話
この町で過ごし始めてから、一か月近く経過した。
まだ兵たちは殿下を捜しているようで、町でも時々見かける。
だから、もう少し遠くの町へ行こうということになり、馬車で移動することにした。
お金はまだまだ大丈夫だ。
殿下が身に着けていたものを売ったのは一回だけなのに、まだまだ金銭的余裕があった。
最初に服を売った時は、次はパンツを売ろうと思っていたけれど、思いのほか服が高く売れたのだ。
ちなみにパンツというのは下着のことではない。
もしかしたら下着にも金銭的な価値があるのかもしれないけれど、さすがにそれは頼めない。
そうそう、下着といえば、町で服を買った時、殿下の下着だけは殿下自身に買ってもらった。
殿下は「弟に頼まれたので……」と店員に言い訳していた。
恥ずかしがる殿下を見ていて、私は何ともいえない気持ちになった。
「隣町まででよろしいのですね?」
「ええ、よろしくお願いします」
私は御者に答えた。
荷物を載せ、私たちも馬車に乗り込んだ。
そして、馬車が出発した。
「私、次の町は一度も行ったことないから、どんなところなのか楽しみです」
「私も一度も言ったことがないから、楽しみだわ」
「へえ、お客さんたち、あの町は初めてなんですか。あそこは、いい町ですよ、基本的にはね。でも、町の端の方だけは治安が悪いので、充分に注意してください」
「わかりました。ご親切に教えてくれてありがとうございます」
私は御者に答えた。
しばらく馬車で進んだ。
当然だけれど、歩くのとは比べ物にならないスピードである。
次の町は遠く離れているので、馬車にしてよかった。
荷物は最小限にしているとはいえ、歩いてここまで来ていたら大変だっただろう。
「あれ? なんだろう……」
御者が呟いた。
私は馬車が進んでいる方を見た。
前方に、誰かがいる。
しかも一人ではなく、何人かの集団である。
もしかしてこの辺が、さっき行っていた治安の悪い場所?
まさか、身ぐるみ剥がされたりするのかな……。
そう思っていたけれど、それは思い過ごしだった。
馬車がその集団に近づくにつれ、彼らが何者なのかわかった。
ある意味では、素行の悪い人たちの方がよかったかもしれない。
その集団は、殿下を捜している兵たちだった。
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