第9話
私たちは買い物を終え、宿屋に入った。
部屋は同じ部屋にしてもらった。
この部屋にはベッドが二つあるので、気を遣うこともない。
同じ部屋にしてもらったのは、いつでも殿下のメイクができるからだ。
街を歩き回って疲れた私たちは、ソファに座ってくつろいでいた。
「ふぅ、緊張したね。街で声を掛けられた時は焦ったわ」
殿下は男の部分を丸出しにしながら言った。
あ、勘違いしないでほしい。
べつに、いやらしい意味ではない。
ただ、声の高さを元に戻したという意味である。
さすがにずっと高い声のままで話すのは疲れるようだ。
しかし、慣れるために口調は女性のままにしておくそうだ。
「まさかナンパされるなんて思いませんでしたね。あの時のエミリーさんの顔、傑作でしたよ。笑うのは悪いと思いながらも、思わず笑っちゃいました」
「本当に驚いたわ。まさか、自分がナンパされる日が来るなんて思ってもいなかったから……。でも、なかなか愉快だったわ。あなたと出会って、私の人生は変わったわ……」
えっと……、それは女装という名の新しい扉を開いてしまったという意味なのかな……。
「今までは厳しい毎日を過ごして、窮屈な思いばかりしていたけれど、あなたと出会ってからは、新しいことや楽しいことばかりで、本当に楽しいわ。嫌なことばかりの人生だったけれど、あなたと出会えてよかった」
ああ、そういう意味ですね……。
殿下の新しい扉を開いてしまったのかと思って、ひやひやした。
それに、私だって殿下に出会って、人生が変わった。
「私だってそうですよ。エミリーさんに出会ってなかったら、ずっとふさぎ込んだままでした。エミリーさんとの出会いが、新たな一歩を踏み出すきっかけになりました。あなたと出会えて、本当によかったです。改めて、これからもよろしくお願いしますね」
「ええ、私の方こそよろしくね」
*
(※ナタリー視点)
さて、今日はお店の今月の売り上げが報告される日だ。
私は売り上げが書かれた報告書に目を通していた。
「……あまり変わっていないわね」
なんというか、拍子抜けだ。
しかし、考えてみたら、これが普通かもしれない。
経営しているのがお姉さまから私に変わっても、その効果がすぐに表れるわけではない。
変化が見えるようになるのは、もう少し先になる。
もちろん、変化というのは、売り上げが上がることだ。
下がるなんてことは、ありえない。
経営者がお姉さまから私に変わって売り上げが下がるというのは、私がお姉さまより劣っているということを意味する。
まあ、そんなことあるはずがないわ……。
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