第8話

 受付を無事終えて、私とエミリオ殿下は同室になった。

 同室にしたのはもちろん、殿下の変装をいつでもできるようにするためだ。


 数日経ってから、私たちは宿屋を出た。

 今なら兵たちはこの周辺を探したあとなので、別の場所を探している。

 それに変装済みなので、もし兵に遭遇しても、ばれる心配もない。

 いつまでも王宮の近くの街にいるわけにもいかないので、私たちは遠くの町を目指した。

 最終的な目的地は決めていないけれど、できるだけ王宮から離れた場所を目指していた。


「すごいですね、エミリーさん。誰もあなたのことに気付きません」


「ええ、そうね」


 変装がばれないように、エミリオ殿下とはいくつか取り決めをした。

 まず、外で話すときは、殿下は必ず高めの声で話すことにした。

 誰が会話を聞いているかわからないので、男だとバレないようにするためだ。

 そして次に、エミリオ殿下のことを、エミリーと呼ぶことにした。

 さすがに殿下と呼ぶのはまずいし、殿下は女性の姿をしているので、エミリオとは呼ばない方がいい。

 そこで、エミリーと呼ぶことになったのである。


 まず私たちは、隣の町へ移動した。

 ここには、王宮の兵の人がまったくいないわけではないけれど、ほとんど見当たらなかった。

 変装もしているので、何も問題はない。

 そこで私たちは、買い物をすることにした。

 

 長い旅になるので、いろいろと必要なものもある。

 とりあえず今一番必要なものは、お金である。

 というわけで、殿下がもともと着ていた服を売ることにした。

 しかし、全部を一気に売ることはしなかった。

 

 そんなに一気に売っても、それだけのお金をお店側が用意できるとは思えない。

 それに、一気に売ったら、お店の人に怪しまれる可能性もある。

 なんだか殿下の身ぐるみを剥いだ気分になってしまった。

 追剥の人も盗品を売る時はこんなことを気にしているのかな、なんて会ったこともない追剥の人たちに、私は思いを馳せていた。


「さて、お金も手に入ったことですし、お買い物でもしましょうか」


「ええ、そうね。まずは何を買うの?」


「そうですね。まずは服を買いましょう。もともと私の分しかありませんでしたから、もう何着かほしいです」


「確かにそうね。私はよくわからないから、新しい服はエルシーが選んで」


「任せてください。あ、私も新しい服が欲しいから、ついでに何着か買いますね」


 せっかく新しい旅が始まったのだから、服も新しいものが欲しかった。


「ええ、でも、あまり買い過ぎると、荷物が多くなって大変だから気を付けてね」


「あ、そうですね……」


 そこまで気が回っていなかった。

 でも、気分を一新するためにも、私は新しい服が欲しかった。

 別に、殿下だけ新しい服でずるいと思ったわけではない。


「えっと……、あ、そうだ。私の服をお下がりであげるので、その分新しい服を買いますね」


「……確かにそうすれば、あなたの新しい服も買えるわね」


「心配しないでください。お下がりしか着せない、なんてことはしないので大丈夫ですよ。きちんとエミリーさんの新しい服も買いますから」

 

「別にそんな心配はしていないけれど……」


     *


 (※ナタリー視点)


 経営を始めてから数日が経ったけれど、今のところは特に何もしていない。

 ただ、従業員からの報告書がいくつか届いたので、それに目を通しただけだ。


 いくつか従業員からの希望が出ていた。

 よくわからないけれど、こういうのって、全部聞いてあげた方がいいのかしら。

 それとも、コストのかかり過ぎる要求は、しばらく我慢してもらうしかないのかな。


 うーん、どうしたらいいの……。

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