第2話

 私は家を出て、街の宿屋で寝泊まりをしていた。


 幸い、しばらく暮らせるお金は持っている。

 でも、今は何もやる気が起きない。

 寝て、起きて、食事をして、あとはぼうっとしているだけ。

 

 そして、起きている時は、あの家でのことを考えてしまうし、寝ていても夢で見てしまう。

 今まで頑張ってきたことは、全部無駄になってしまった。

 私は、家族の一員になれるように、努力してきた。

 しかし、それが報われることはなかった

 

 まさかあの権利書まで奪われるとは思っていなかった。

 以前は、バスティン家の財務状況は最悪だった。

 そこで両親から、お前が何とかしろと言われ、私は何とか思考錯誤しながら、お店の経営を始めた。

 そして、思いのほかうまくいって、お店は軌道に乗り、あっという間に財政問題は解決した。


 両親や妹は喜んだ。

 私も役に立てた気がして嬉しかった。

 しかし、家族は以前にも増して贅沢をするようになり、私はますます仕事に追われた。

 それでも、家族の役に立っていることが嬉しかった。

 直接褒められたり、認められたりはしなかったけれど、それでも嬉しかった。


 しかし、経営権は妹に奪われ、私は家族の役に立つ術を失った。

 婚約者も奪われ、いらない者扱いされた私は、あの家を出る決心をしたのだ。


 今まで、辛くても耐えて頑張ってきたのは、家族のためだった。

 しかし、その家族に裏切られてしまった。

 それは、絶望するのには充分だった。

 この気持ちはいつか、晴れるのだろうか。

 ずっとこの重い気持ちを抱えたままというのは、辛すぎる。


 あの時、ああしておけばよかった。

 あの時は、もう少し違うやり方をしておくべきだった。

 そうすれば、こんなことにはならなかったかもしれない。

 

 毎日毎日、そんなことばかり考えていた。

 その度に、憂鬱な気分になっていた。

 いつまでもこんなことでは、新しい人生を歩むことはできない。

 そうわかっていても、どうしてもいろいろと考えてしまう。


 そして、ある日の夜のこと。

 変わらず宿屋で過ごしていた私は、外が騒がしいことに気付いた。

 窓から街の様子を見てみると、たくさんの兵が走り回っていた。


 何か、あったのかしら……。


 普段はあんなにたくさんの兵が街にいることはない。

 もしかしたら、事件や事故などがあったのかもしれない。


 廊下から、誰かが走っている足音が聞こえてきた。

 そして、その足音は私の部屋の前で止まり、誰かが私の部屋のドアをノックした。

 最初は、無視しようと思った。

 

 でも、なんとなく、この扉を開けば、何かが変わる気がした。


 私は座っていたベッドから立ち上がり、ドアの方へ向かった。

 そして、大きく深呼吸してから、ドアを開けた。


「え……」


 私は驚いた。

 どうして、こんなところに……。


 そこにいたのは、私の知っている人物だった……。

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