第3話

「え……」


 私の部屋の前にいたのは、エミリオ王子だった。

 彼は、この国の第四王子である。


 えっと……、そんな彼が、いったいどうしてこんなところに?


「いきなりのことで申し訳ない。実は私は今、追われている身なのだ。どうか、しばらくの間、部屋の中で匿ってくれないだろうか?」


「えっと……」


 いきなりすぎて、状況がよくわからない。

 追われている?

 エミリオ殿下が?

 いったい、どうして?


 いろいろな疑問が頭の中に浮かんだけれど、一つだけわかったことがあった。

 それは、目の前にいるエミリオ殿下がもの凄く必死だということだ。

 彼の表情を見れば、それはわかった。


「とりあえず、中に入ってください。どうぞ……」


 私はエミリオ殿下を部屋の中に招き入れ、ドアを閉めた。

 とりあえず殿下には、部屋の中央にあるソファに座ってもらった。

 私は対面のベッドに腰かけた。


「あの、エミリオ殿下、いったいどうして──」


 私は話している途中で、廊下から聞こえてくるたくさんの足音に気付いた。

 殿下もそのことに気付いたらしい。

 すぐに、ベッドに腰かけている私の方へ勢いよく迫ってきた。

 

 そのまま押し倒されるのかと思ったけれど、そんなことはなかった。

 殿下は、ベッドの下に隠れた。

 そしてそのあとすぐに、私の部屋のドアが、ノックもなしに開かれた。


「失礼します。この部屋に、エミリオ王子は来ませんでしたか? この宿屋に入ったという目撃情報があったのですが」


 部屋に入ってきたのは、王家に仕える兵だった。


「いえ、来ていません。何かあったのですか?」


 私は自然に振る舞って答えた。


「本当に、来ていませんか?」


「来ていませんよ。何度も同じことを言わせないでください。ノックもなしに部屋に入ってきて、少し失礼ではありませんか?」


 私は兵を睨みつけた。


「失礼いたしました。緊急事態なので、我々も必死なのです」


「そうですか……、まあ、それならしかたないですね。殿下を目撃したら、必ずお知らせします」


「ありがとうございます。ご協力に感謝致します」


 兵は部屋から出て行った。

 しばらく、私はそのまま動かなかった。

 時間が経つと、この宿屋から兵が引き上げて行った。


「殿下、兵たちは外へ行きましたよ」


 私はベッドの下にいる殿下に呼び掛けた。


「そうか……」


 殿下がベッドの下から出てきた。


「本当にありがとう。事情もろくに話していないのに、私のことを庇ってくれて。君には、感謝してもしきれない」


 さっきまでの必死な表情とは打って変わって、殿下は明るい表情で手を差し出してきた。

 私はその手を取って、殿下と握手を交わした。


     *


 (※ナタリー視点)


「さすがだ、ナタリー。まさか、あいつから店の経営権を奪ってくれるなんて、思っていなかったぞ」


「これで、収入源を失わずに済むわね」


 お父様とお母様が、私のことを褒めてくれた。

 私はそれに笑顔で答えた。


「ナタリー、君がお店の経営をできるなんて知らなかったよ」


「何を言っているの、レックス。私、お店の経営なんてやったことないわ」


「え……、やったことないのかい?」


「大丈夫よ、心配しないで。お姉様でもできたことなんだから、私にできない道理はないわ!」

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