妹に婚約者を奪われて家を出た私は、なぜか王子に溺愛されることになりました。一方、私から何もかも奪った妹たちは……

下柳

第1話

「君との婚約は、破棄する。そして私は、君の妹のナタリーと新たに婚約することにした。このことには、君のご両親もすでに納得している」


「え……」


 侯爵令嬢である私、エルシー・バスティンは、婚約者である侯爵令息のレックス・ザイクナーに婚約破棄を言い渡された。

 突然のことで、頭が追いつかなかった。

 

 婚約破棄?

 しかも、妹のナタリーと婚約?

 両親はそれに納得しているですって?


「ぼうっとしているけど、状況は理解した? お姉さまはもう、いらないのよ。ああ、それと、絶望しているところを悪いけど、もう一つ、お姉さまに知らせることがあるわ。ももう、私のものになったから」


「え!? それは……」


 妹が持っていたのは、私が経営しているお店の権利書と、それを譲渡すると記された書類だった。


「お姉さまの捺印とサインは、私がしておいてあげたわ。お姉さまのお手を煩わせるわけにはいきませんものね」


 妹は高らかに笑っていた。

 どうしてこんな、ひどいことができるの?

 そして、どうしてこんなひどいことが、この家では許されているの?


 もう、耐えられない。

 今まで頑張ってきたけれど、もう限界だ。

 私は、この家を出る決心をした。


「惨めね、お姉さま。何もかも私に奪われた今の気分はどう? あ、その顔を見ると、聞くまでもないわね」


 家を出る私を見送る時も、妹は笑っていた。

 元婚約者も、両親も一緒になって笑っていた。

 

「さようなら……」


 私は家を出た。

 誰一人、寂しがったり、悲しんだりしている者はいなかった。

 私は絶望しながら、暗い夜の中、一人で街を歩いていた。

 

 しかし、失意のどん底だった私は、なぜかこの国の第四王子に溺愛されることになるのだった。

 一方、私から何もかも奪った妹たちは……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る