4-5 新たな敵(1/3)
北門の指揮台にいるウィローの目の前、濠の向こうの平野は、見渡す限りオークの軍団で埋め尽くされていた。その中を、四階建ほどの高さで、がっしりした木組みの細長い
「あれは、濠を渡るための橋をかけるつもりだ。台車を押しているオーク達を狙って、足止めして!」
ウィローが叫ぶと、守備隊長からの指示が飛び、門の上から一斉に矢が射かけられた。台車を引いているオーク達がバタバタと倒れるが、周りに無尽蔵にいるオークがすぐに入れ替わるので、台車の動きは止まらない。やがて濠の淵まで到達すると、ゆっくりと櫓が前に傾き始めた。台車の後ろにいる大勢のオーク達が綱を引いていて、それを緩めると前に倒れる仕組みになっているようだった。
「架橋兵器まで持ってくるなんて、野性のオークを大勢集めただけじゃなくて、軍事兵器の専門家もついているってこと?」
ウィローは大弓を引き絞り、立て続けに矢を放った。他の兵の弓では届かない、台車の後ろまで飛んだ矢が、綱を引いているオーク達を三頭、四頭と倒していくと、残りのオークでは傾いた櫓を支えきれず綱から手を離したので、斜めになっていた櫓は一気に地面に叩きつけられて、バラバラに壊れた。
しかし、一台の櫓が破壊されても、横に並んで進んでいた残りの四台は、濠の淵から張り出すように水平に横たえられて、それぞれの櫓の木組みの中から、まっすぐに板が送り出されて濠のこちら側まで届くと、即席の橋ができ上がる。
「まずい。濠を渡って来る」
出来上がった四本の橋を渡って、オーク達が一斉に濠のこちら側になだれ込んで来た。橋の出口を狙って一斉に矢を射かけるが、走り込んでくる数の方が圧倒的に多く、門の前はたちまちオークで埋め尽くされた。
濠を渡って押し寄せて来ているオークの中には、先端に尖った金属を取り付けた巨大な丸太を、十数頭で抱えている集団がいた。丸太を抱えたまま勢いを付けて突進し、門を打ち破るための兵器、
「破城槌まで持って来てるか」
ウィローは、オーク達を後ろで操っている勢力に、底知れぬ不気味さを感じていた。
門に梯子を立てかけ、よじ登ってくるオークは、岩を投げ落として排除し、破城槌を抱えて門の前に突進してくる者は、矢を射かけて倒しているが、後から続々と濠を渡ってくる列は途切れず、キリがなかった。
「ウィロー閣下! 西の丘のフェルセンバント殿から伝令が来ました。鉱山に敵が迫って来たとの連絡があったので、西の丘の守りには、ハルスケッテ殿が率いる最小限のドワーフを残して、鉱山に戻るとのこと」
「そう……、彼らのヤマが危ないとなったら、仕方ないね」
「海軍は、いまだ港から出られず、ドワーフも撤収となると、敵の後方を突くことはできません。ひたすら、北門を守るばかりですね」
ウィローは、厳しい顔でくちびるを噛んだ。
「絶対に、ここは守り切る」
祈るような表情で、大弓を引き絞って放った。
港の沖合では、海軍の二十艘の軍艦と、ほぼ同数の海賊船が向き合っていた。海軍で最大の船である旗艦の甲板に立つフスパンネン少将は、全艦に攻撃開始の号令を出そうとしたところで、副艦長の緊迫した声にさえぎられた。
「フスパンネン少将! あれは海賊船では?」
水平線の先に目を向けると、船体も帆も真っ黒な船が十数隻、近づいて来るのが見えた。
「戦力を増強してきたか。増援の敵艦が近づく前に、できるだけ叩いておく。全艦攻撃開始!」
「攻撃開始!」
旗艦のラッパ手が合図を吹き鳴らすと、海軍の軍艦と海賊船が同時に動き始めた。帆はたたんだまま櫂を漕ぎながら、お互いに矢が届く距離に接近すると、一斉に矢を射ち合い、さらに船同士がぶつかり合う距離まで近づくと、剣を持った水兵がお互いに乗り込んで斬り合いになる。海賊船の中には、火矢を打ち込んでくるものもいて、甲板から火が上っては消し止める様子も見えた。
やがて沖合から敵の船が次々と到着し、海軍の軍艦一艘に、二、三艘の海賊船が取り囲むように取り付くようになっていた。囲まれた船は懸命に戦っているが、次々に炎上し始めて、戦力にならなくなっていく。
「フスパンネン少将! 左舷方向の沖から、新たな船団がやって来ました! ものすごい数です」
副艦長の声に応じて左舷方向を見ると、港の左手にある岬の沖を回って近づいて来る船団が見えた。その数は軽く百艘を超えている。
「む。どれだけ海賊船を集めたのか」
「今まで来ていた海賊船と少し様子が違います。船体が小さいですし、色も黒塗りにしていません。別な海賊集団のようですね」
「あの数で来られたら、全部は抑えきれないな。港に入り込まれてしまうかもしれない」
フスパンネンは、沖から近づいて来る船団を見つめながら、伝令兵に呼びかけた。
「海軍本部に手旗信号の送信。敵上陸に備えて、港湾周辺の市民の避難命令を発令するように」
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