3-6 再会(3/3)


 ウィローは、ランプを持って門の中に入って行った。

「私がエステュワリエンに到着する前の最初のオークの攻撃で、海岸の河の民の村と一緒に、この丘の上に向かっても火矢を打ち込んできたんだって。最初は、フェルンとオクサリスの二人で火を消してたらしいんだけど、火がついたまま爆発する火薬玉が飛んできて、一気に燃え広がったら、もう手に負えなくなっちゃったって」

 建物があったはずの場所で、ウィローがランプを高く掲げると、焼け落ちて黒焦げになった木の柱や屋根、崩れ落ちたレンガの山が、暗闇の中に浮かび上がった。粉々になった食器のかけらも見える。

「余計な心配をかけないように、手紙には書かなかったんだ……」


 オフィーリアは、焦げた地面の上に膝をついた。

 あの貴重な本も、絵画も、すばらしい彫刻がほどこされた家具調度品も、全部失われてしまった。

 毎日、おいしい食事やお茶を頂いていた食堂も、素敵な食器も。

 朝日に輝いていた出窓やカーテンも。

 子供達に音曲を教える教室になるはずだった部屋も。

 毎晩、ウィローに歌を歌い、満足し切った寝顔を見守っていた寝室も。

 すべての思い出が、灰になってしまった。


「ひどい……、ひどすぎる……」

 オフィーリアは大声をあげて泣き始めた。

 ウィローが寄り添って頭を撫でていると、横手の暗闇の中で、扉を開ける音と共に明かりが漏れ、大きな声が響いた。

「オフィーリア様?」

 貯蔵庫の扉を開けて駆け寄ってきたのは、オクサリスだった。

「オフィーリア様! オフィーリア様! オフィーリア様!」

 オクサリスは、ウィローの反対側からオフィーリアの胸に抱きつくと、さらに大きな声で泣き始める。

「オクサリス……。大変だったのね……。怖かったでしょう……」

 オフィーリアは、オクサリスの肩を抱きながら背中をさすった。

「そ、そうだ! オフィーリア様、少しお待ち下さい」

 オクサリスは立ち上がると、貯蔵庫の方に走って行き、何かを背負って駆け戻ってきた。

「オフィーリア様のお荷物は、しっかりお守りしました。部屋に鍵をかけていたので、火事の中から持ち出す時にちょっと手間取って、煤がついてしまいましたけど。オフィーリア様のおっしゃったとおり、鍵はかけないでおけばよかった」

 手渡された自分のバッグを手にして、オフィーリアは、また泣き始めた。

「ありがとう……ありがとう……。そんな状況で、私の荷物のために……」

 子供達に音曲を教えるために、プリントン・ウーデ音楽院を出てからずっと持ち歩いていた音曲の教則本や楽譜は、全て無傷で残っていた。これがあれば、大丈夫。

「しっかりお守りするって、約束しましたから!」


「さ、もう中に入ろう。今は三人で、貯蔵庫の中で暮らしてるんだよ。昼間も涼しいし、食べ物はいくらでもあるし、結構快適だよ」

「貯蔵庫の中……」

「氷室の氷が、まだたくさん残ってるから、厚着してないと寒くて夜寝れないんですよ」

 オクサリスが涙をふき、笑いながら言った。

「そう。でも、旅をしていて、寒空の下で寝るのも慣れてるから、平気よ」

 三人が、手をつないで貯蔵庫に向かって歩いて行くと、扉の前にフェルンが立っていた。

「お帰りなさいませ、オフィーリア様」

「フェルン……。ただいま」

 オフィーリアは、また泣きそうになるのをこらえて、精一杯微笑んだ。

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