4-4 挟み撃ち(1/2)
ウィローが北門の指揮台に着くと、予想通りオークの軍団が北街道方面から進軍して来るのが見えた。さっき押し流した連中とは別に、ずっと上流で大河を渡ってきたのだろう。大きな太鼓を叩くドーン、ドーンという地響きのような音が、一定の間隔で続き、恐ろしさを増している。
門の外側の濠にかかっていた橋は、鎖を巻き上げて内側に外してあるので、オークがやってきても濠の手前で食い止めることができるようになっていた。
北門は、東門の倍以上の大きさがあるので、配備されている兵士もずっと多く、装備も充実している。とは言え、街道を進んで来るオークの大軍を前に、兵士の顔にも緊張と恐れが浮かんでいた。
ウィローは門柱の一番上に構えた指揮台に上がると、北門の守備隊長の横に並んで、外を見下ろした。
「ウィロー閣下! 東門で、渡河中の敵軍をたった一人で全滅させたとの報告を聞きました。凄まじいエルフの技に敬服するばかりです!」
「ありがとう。あっちは水があるからね。でも、こっちは、みんなの力で頑張ってもらわないといけないから。ドワーフのフェルセンバントとの連携は大丈夫?」
「はっ! 敵を十分に濠の前に引き付けておいてから、合図と共にドワーフ軍が後ろを襲い、挟み撃ちにする作戦であります。包囲を逃れて敗走する敵兵は、海軍が大河を遡行して二重に包囲して掃討する手筈もできております」
ウィローは、にこりとした。
「完璧だね」
進軍して来たオーク軍は、東の丘と西の丘に挟まれた平地に到着すると、不気味な
「あー、気持ち悪い。さっさと駆除したいなあ」
「ウィロー閣下。もう少しの辛抱です。濠の前まで寄せて来させて、こちらの矢の射程に入ってから攻撃しますので」
「わかってる。守備隊長の指揮に従うから、大丈夫だよ」
ウィローは、大弓を背中から下ろし、目の前に広がるオーク達を睨みつけた。
オーク軍の陣中で大きな銅鑼を打ち鳴らす音が響き、喚声を上げながら全軍が突進し始めた。長い梯子を抱えている兵士が先頭を走り、濠の上に渡そうとしている。
「よし、来たな。伝令!
「了解!」
守備隊長の指示を受け、伝令兵が駆け出して行く。
「あれ……? おかしいな?」
「ウィロー閣下、いかがされました?」
濠の前に押し寄せて来たオーク達の様子を見ながら、ウィローは首をかしげた。
「水の桃源郷からの報告だと、少なくとも二万頭のオークが西に向かって進んでいたはずなんだよ。さっきの大河で半分を押し戻したとしても、一万は北から来るはず。でも、今、攻めて来てるのは、どう見ても千頭もいない……」
「後方に、本陣がまだいるということですか?」
ウィローは、指揮台の端から身を乗り出して左手を見た。
「まずい! ドワーフが出てきたら、その後ろからさらに挟み撃ちにされるかもしれない!」
「今の大角笛の合図で、ドワーフが出撃してしまう?」
「はい。そのように取り決めています。しかし、仮に敵の本陣が後ろにいたとしても、海軍がさらに後ろから入りますから、大丈夫かと」
「そうであればいいけど」
濠の向こう側から梯子をかけようとしていた者が、みな射落とされて、手の打ちようがなくなったオーク達は、盾を構えて体を縮めているばかりで動かなくなった。そこに、甲高いラッパの音が鳴り響き、喚声を上げて押し寄せて来る一軍が見えた。
「ウィロー閣下! ドワーフの援軍が到着しました。弓矢隊、射撃やめ」
「フェルセンバント……」
ドワーフ達は、身長の半分の長さはある巨大な槌を振り回し、オークの後ろから次々に襲いかかる。一撃で打ち倒される者、手負いになって濠に落ちる者で隊列は崩されていき、歩くことのできるオーク達は散り散りになって逃げ出し始めた。
「ウィロー閣下! 後続の本陣も来ませんし、圧勝ですね。実際に大河を渡れたのは、あれだけだったのかも知れません」
「うーん……」
濠の向こうと門の上で、ドワーフの援軍と人間の衛兵が、声を揃えて
「伝令! 海軍司令に、北門は敵軍を撃退完了。出撃するまでもないと連絡せよ」
「了解!」
伝令兵が駆け出そうとするのと同時に、逆に伝令室から兵士が駆け込んで来た。
「守備隊長宛に海軍本部から連絡! 港に海賊船が約百隻来襲。戦闘状態に入っています」
「なにい!」
守備隊長とウィローは、顔を見合わせた。
「海軍を港に足止めするつもりだ。まさか!」
ウィローが指揮台の上から身を乗り出すと、遠く平野の向こうから、ドーン、ドーンという地響きのような音が一定の間隔で響いてきた。さっきのオーク軍よりも格段に数が多い上に、北街道だけでなく、見渡す限りの平野一帯から聞こえて来る。
「フェルセンバント! ドワーフ軍を連れて、今すぐに西の丘に引き上げて! 敵がまた襲って来る! 早く、逃げて!」
ウィローは、あらん限りの大声で叫ぶが、初戦の勝利に高揚して、エステュワリエンの栄光を讃える讃歌を大声で歌っている人間やドワーフ達には、気付いてもらえない。
「早く、逃げて!」
地平線の先に、動く影が見え始めた。
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