プロローグ

「オフィーリア先生! 練習してきたよ! 聞いて!」

 緑の豊かな庭を走り抜け、真っ白な窓枠のついた扉を開けて、三人の子供達が駆け込んできた。

「はい。みんな揃ったら順番に聞いてあげるから、練習室に行って座っててね」

「一番最初は僕だよ!」

「私が先!」

 先生と呼ばれた女性は、優しい声で答えながら奥の練習室につながる扉を開けたが、子供達はなかなか奥には入らず、まとわりついている。


「ただいま」

「あ、ウィローだ!」

 子供達の後ろから入ってきたのは、さらりと長い金髪を後で結って垂らした女のエルフだった。それまで先生にまとわりついていた少年は、後から来たエルフの前に立つと両手を揃えて前に構えた。

「ねえ、ウィロー! また剣術を教えてよ」

「だーめ。こないだ、ここで棒振り回して壺を割っちゃって、オフィーリアに怒られたでしょ」

「えー。じゃあ、オーク戦争の話を聞かせてよ」

「これからオフィーリアのレッスンでしょ。それが終わったらね。早く練習室行かないと」

「ちぇっ」

 少年が渋々練習室に入ると、他の子供達もそろって入って行った。


「改めて、ただいま」

「おかえりなさい」

 誰もいなくなったところで、オフィーリアとウィローはお互いの肩に手を置いて、口づけをかわす。

「あー。オフィーリア先生とウィローがちゅっちゅしてる」

 いつの間にか、別の少女が一人、庭から入ってきていた。

「あら、いらっしゃい。みんな練習室にいるわよ」

 オフィーリアは、澄ました顔で奥を指さすが、少女はじっと二人の顔を見ながら言った。

「オフィーリア先生とウィローって、家族なの?」

「そうよ。結婚してるの」

 ウィローの答えに、少女は首をかしげた。

「でも、先生とウィローは人間とエルフで違うし、おんなじ女同士だし、歳もずいぶん違うし……」

 ウィローはニヤっと笑うと、人差し指を立てて言った。

「違うからダメで、同じでもダメって、おかしくない? じゃあ、おんなじ人間同士で結婚するのはダメで、違う男と女で結婚するのもダメになっちゃうよ」

「それは違うし、えっと違わないし……」

 少女が困り顔になったので、オフィーリアは助け舟を出した。

「先生とウィローは、好き同士だから結婚したの。お互いに好きだったら、人間でもエルフでも男でも女でも、結婚していいのよ」

「そうなんだ! じゃあ、私も人間の女の子と結婚してもいいの?」

「うん。相手も好きって言ってくれたらね」

 少女は、長い耳に金髪をかけると、満面の笑顔になって練習室に駆け込んで行った。


「あの子達が、いつまでも笑顔でいられるといいね」

「うん」

 練習室で、人間の少女に話しかけているエルフ少女の後ろ姿を見ながら、二人は、しっかりと手を握りあった。





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