第65話 愛を告げる
陽射しに照らされた木々が輝いて見え、花々は、時々やわらかな風に踊らされている。
宮廷の庭園奥へと歩むデレクが振り返った。
「テラ、呼び出してすまなかった」
「いいえ、私もお会いしたかったので…」と、テラが頬を微かに染めた。
「この場所をいつも君は、セシリアと歩いていたね。時折、楽しげに話す君たちの声が響いていたんだ」
「そ、それほど大きな声でしたか」と、テラは、更に頬を赤らめた。
「い、いや、大きな声ではなかったが。たぶん……」と、テラを見つめたデレクは、続きを話すことなく前を向き再び奥へと歩き出した。テラは、その後ろを静かについていった。
一時期は、花は咲かず木々も枯れ異臭さえ放っていた庭園は、かっての姿を取り戻していた。様々な花が色とりどりに咲き、木々の葉は瑞々しい。
「テラ、デビュタントの日のことを覚えているかい」と、池の辺で立ち止まったデレクがテラを見つめながら言った。傍には大きな木がすくっと立っている。
それは、テラがデビュタントの会場を抜け出した時のこと。
デレクの放った魔法の風に煽られたペンダントが、池の辺にある木の枝に引っかかった。そのペンダントは、母から譲り受けた代々女系に伝えられた品。後にそのペンダントには、エスプリ様の欠片が埋め込まれていたことを知った。そのペンダントは、デレクの命を救った際に魂に宿った欠片と一緒に消えて今はもうない。
当時、魔法が使えなかったテラは、その木に登りペンダントを手に取ることが出来たが、同時に摑まっていた枝が折れて体が宙に投げ出された。
だが、池に落ちることなく何故かデレクの両腕に抱きかかえられ助かったのだった。
「はい。覚えております。あの時はお助けいただきありがとうございました」
「いや、あの時は、私の力ではないんだ。たぶん、エスプリ様の加護で君は、池に落ちることなく私の元へ飛び込んできたんだ……それにその直前、池に落ちると思った君は、水面の上で美しい光に包まれながら立っていたのを見たんだ」
テラは、大きな瞳を閉じ瞬きをしてデレクを再び見た。池の水面が風に撫でられてキラキラと波打った。
「そ、その、本当は、父上がキリア家に婚約の打診をされる前に、私の思いを君に告げるべきだったのだが…すまない」
(えっ、それって、殿下は私のことを……デレク殿下は、私との婚約をお断りになるのだわ)
「お、お気になさらないでください殿下」顔の色を失ったテラの声は、震えていた。
沈黙が二人を包んだのち、焦るようにデレクが声を発した。
「ち、違うんだ。もしかして、私の言い方が悪かったのか。勘違いをさせてしまったのなら申し訳ない」
デレクが深呼吸をして言葉を続けた。
「私は、あの時から…光に包まれたテラを見たときから君に惹かれていたんだ。だから、テラがセシリアの元を訪ねてくる度にそれとなく遠くから君を見ていた。私は、テラを愛しているんだ。どうか、私の后になって欲しい」と言うと、デレクは、跪きテラの手の甲に優しく口づけをした。
テラは、大粒の涙を零した。
「私も、私も、デレク殿下をお慕いしています」
見つめあったのち抱擁する二人からは、愛おしさが溢れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます