対決
第54話 地下牢にて
皇帝直属の騎士団に捉えられたキリア伯爵とシェリー、テラは、宮廷の地下牢に幽閉されていた。
キリア邸に勤めていた者たちは、執事のリールも含め全員サガの牢獄へと既に送られていた。サガの牢獄は、セシリア皇女がシリウスによって救出されなければ移送される予定だった最も劣悪な環境の牢獄である。
「キリア伯爵、すまない。私は、皇帝の命に背くことは出来ない」と、皇帝直属の騎士団長であるサングリア侯爵が、眉間に皺を寄せ苦悶の表情を見せながら力のない声で言った。
「ああ、サングリア侯爵。仕方のないことだ。だが、できるなら私はこの首を刎ねられてもかまわないが、妻と娘は何とか助けてもらえないだろうか」キリア伯爵の顔には、無精ひげが伸びているが目力は、以前と変わりなかった。
「あなた、そんなこと。私もお供します。でも、サングリア侯爵様、どうかテラを。テラをお助け下さいませ」
シェリーは、牢の冷たい石の床に額をつけるように懇願した。結った髪が更に乱れていく。
「お母さま、お止めください。お父様、私も覚悟はできております。それにキリア家が皇帝陛下の不興をかった原因は、私にあります。私のせいでこの様なことになり申し訳ございません」と、テラは、シェリーに寄り添いしっかりとした口調で言うとサングリア侯爵を見た。
「サングリア侯爵様、一つお伺いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
「キリア伯爵、テラ嬢は、聖女ということを抜きにしても立派な令嬢にお育ちになったな。テラ嬢、どうぞ言ってください。可能な限りお答えしましょう」
「デレク皇太子殿下は、現在どのような状況下においででしょうか」
サングリアは、目を閉じ思案する様子を見せた後にゆっくりと話し出した。
「デレク殿下は、先程ご帰還されました。ですが、皇帝陛下の逆鱗に触れ皇太子の称号を剥奪され、現在は、自室で謹慎されておられます」
「えっ、皇太子の称号を剥奪された……」
言葉に詰まったテラの横からキリア伯爵が声を荒げた。
「何ということだ。この国唯一の皇子であらせられるのに。この国は、今後どうなってゆくのだ」
「ああ、本当に先が見えん」
「サングリア侯爵、貴殿はそれでよいのか。危惧しているだけでは、忠誠ととはいえんだろう」
「ああ、わかってはいるさ。だが、どうしろというのだ。宰相殿でさえも進言できずにいるのに」
「デレク殿下は、この国をしっかりと統べることのできる立派な方だ。皇帝陛下は、可愛がっておられたセシリア皇女様でさえも、我が家を窮地に追いやるために投獄された。デレク殿下も危険ではないのか」
「ああ、セシリア様も、もう御戻りになられない方が良いだろう。危険だ。そう考えると皇太子の称号を剥奪されたデレク殿下も嘘の罪をきせられることもあり得るな。現在の皇帝陛下は、別人のように恐ろしい…」
一人の騎士が、足音を立てながら地下牢の奥深く、キリア伯爵の牢の前に立つサングリアの元へ速足で近づいてきた。石畳の地下牢は足音さえも冷たく響いた。
「サングリア侯爵様、皇帝陛下よりキリア伯爵家への裁定が下されます。ご一族を裁定の間へ連行するよう伝達が届きました」
「ああ、わかった」というとサングリアは、三人の手首の拘束の縄を締め直した。
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