危機

第50話 セシリア皇女の危機

 テラが、家族に自身の秘密を暴露して七日が経った頃。

 「ホーホー」

 夜明け前に、フクロウの伝書がテラの枕元に届いた。

 

 寝惚け眼のテラが、フクロウの頭をそっと撫でると、翼を広げたフクロウから文字が映し出された。

 テラは、薄暗い室内に映し出された手紙を読むと大慌てでシリウスの部屋に駆けだした。


 「お兄様、起きてください。大変なんです。セシリア様が、サガの牢獄に、」

 その忙しい口調にベッドの中のシリウスは、眠そうな眼をテラに向けた。

 「テラ、おはよう。って、まだ夜明け前じゃあないか。この様な時間にいったいどうしたんだい」と、おっとりとした口調で話しながら大きなあくびをしかけた。

 だが、不意に驚いたように目を見開いてテラに問い直した。

 「えっ、何だって。セシリア様がサガにって」

 「だから、あの悪名高いサガの牢獄に、」

 サガの牢獄とは、主に重罪人が入れられる硬固で劣悪な環境の牢獄で有名だった。そこに投獄された者は、ひと月も命が持たないという。皇女であるセシリアがその様な場所に投獄されては、数日も持たないかもしれない。体だけでなく心も危ない。


 シリウスの部屋で、再びフクロウの伝書を開いた。

 「テラ様、どうか身分の低い侍女から手紙を差し出すことをお許しください。

 先程出された陛下の命令で夜が明け次第にセシリア様は、宮廷の地下牢からサガの牢獄へと移送されてしまいます。もちろんセシリア様がそのような罪を犯すなどありえません。ですが、陛下はかなりご立腹で、宰相の言葉さえもお聞き入れにならなかったそうです。テラ様、セシリア皇女様をどうかお助け下さいませ。

 デレク皇太子殿下にも伝書をお届けしておりますが、遠征先から戻られることが出来るかどうかもわかりません。

 一刻を争うためこのような時間での伝書、お許しくださいませ」

 セシリア皇女は、政務への口出しを理由に数日前から再び地下牢に幽閉されていた。理不尽な二度目の地下牢への幽閉。更には、サガへの投獄。


 手紙を読んだシリウスが鋭い目つきになると、いつもとは異なる厳しい口調でテラに言った。

 「僕は、直ぐに宮廷の地下牢へと向かう。そして、何としてもセシリア様を救出する。テラは、このことを父上に直ぐに伝えなさい。そして、父上の指示に従い、母上と共にできるだけ早くこの邸から非難するように」

 シリウスは、言い終えるとすぐさま移動魔法を使い眩い光と共に消えた。


 キリア邸の催事にも使われる広いホールの中央に、旅立ちの身支度を整えたシェリーとテラが立ち、キリア伯爵が寂し気な笑顔を向けていた。

 「さあ、二人とも。もう行きなさい」

 「あなた、どうかご無事で」

 「そんな、お父様はご一緒に行かれないのですか」

 「ああ、大丈夫だ。手はずは整えてある。安心していきなさい」と、テラに優しい眼差しを向けるとシェリーを見つめ頷いた。シェリーも無言のまま頷き、テラの肩に腕を回した。

 二人が光に包まれ始めたとき、邸に大きな声が響いた。

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