第48話 テラの暴露

 窓の外は、月明かりや星の瞬きもなく暗闇に包まれていた。

 「いったい…どういうことなんだ」

 キリア伯爵の声が、ろうそくの炎を揺らす様に響いた。

 「あなた…テラの話したことは、」母であるシェリーの声は震え瞳も揺れている。

 「ああ。テラが話すことだから信じたい。だが、どのように理解して良いのか…」

 キリア伯爵が、組んだ両手に顎を乗せ考え込むように下を向いた。


 今夜、久しぶりに早く帰宅した伯爵とシリウスは、夕食を家族揃ってとることが出来た。

 だが、いつになくテラの表情は硬く、口数も少なかった。

 「テラ、どうしたんだい。元気がないようだが」

 「あのう、お父様。この後お時間を頂きたいのですが。聞いていただきたいことがあります。お母様、お兄様もご一緒に」

 「はて。好きな方でもできたのかい」

 「だめだ、テラにはまだ早い」と、慌てるようにシリウスが立ちあがり言った。

 「シリウス、お止めなさい」と、シェリーに睨まれたシリウスが再び席に着くと「まずは、お食事をいただきましょう。ほら、テラも食べないと言いたいことも言えないわよ」とシェリーがにっこりと微笑んだ。

 

 夕食後に、いつも家族で団欒を楽しむ部屋へ場所を移した。その部屋は、伯爵邸の中でも比較的小さく飾りも少ない素朴な誂えになっていて、家族が気を張らずにリラックスして会話を楽しめる場所だった。

 「信じて頂けないかもしれないのですが、」不安な表情のテラが言った。隣に座るシェリーが無言のままテラの肩をトントンと優しくたたいた。テラが幼いころからしてもらっていた「大丈夫よ」というおまじないだった。

 「ああ。しっかり聞くから、ゆっくりと話しなさい」落ち着いた伯爵の声が響き、シリウスが同意するように頷いた。

 

 テラは、前世の記憶があることや、自身が、精霊王の娘であり初代皇后でもあるエスプリ様の娘の魂を持ちその魂にはエスプリ様の欠片が付いていること。また、シェリーから受け継いだ代々女系に伝承されているペンダントの宝石にもエスプリ様の欠片が使われていたこと。更には、邪鬼や邪気についても説明した。


 テラが話す間、三人は静かに聞いていた。説明を終えた後暫し続いた沈黙を破ったのは、シリウスだった。

 「う~ん、エスプリ様という名だけは聞いたことがある。でも、詳細が掛かれた書物は無かったはずなんだ。だから、初代皇后のエスプリ様が精霊王の娘だとは初耳というか誰も知らないことだよ。テラがエスプリ様の娘の魂…確かにテラの美しさは精霊の魂を受け継いでいるとすれば頷ける。でも、たとえテラが、そのような魂の持ち主だったとしても、どちらにしてもテラが私の可愛い妹であることに変わりはない。父上と母上の、キリア伯爵家の娘に変わりはないんだ」

 「そうよ。テラは、私が生んだ愛おしい娘に変わりはないわ」と、シェリーはテラの肩を抱き寄せた。

 テラの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

 「ああ。大切なキリア家の娘に違いない。気にすることはないさ」なだめるように伯爵が言った。

 「で、でも、お父様。私のせいでこの家は、今、窮地に立たされているのでしょう。私のことで皇帝陛下から疎まれていると…」

 前世の記憶から多少の薬草や衛生環境、感染防御の知識があり、救護所開設に功を奏したことや、エスプリ様の欠片のおかげで額に光がないのに癒しの力があることで、人々から聖女と噂されてしまった。そのことが原因でテラは、皇帝陛下から怒りをかった。

 その怒りは、キリア伯爵家そのものにも向けられており、窮地に立たされた伯爵とシリウスは水面下で危機を脱出する方法を模索し動いていた。

 

 


 

 

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