第40話 家族の再会

 「父さん、父さんなの」いつもは、物静かなナーナが叫んだ。

 ナーナは家の外から響いた音に何事かと出てきた。そして、転倒し雪の上に座り込むようにしている自分の父親を見つけたのだった。

 「あっ、ナーナか。大きくなって……」再び涙声になり言葉が詰まった。

 ナーナに少し遅れて出てきたユーユがナーナのスカートの裾を掴みナーナの背中に隠れるようにしながら覗き確認するように言った。

 「とう、さん」

 「ユーユなのか……」

 ユーユは、少しはにかむ様子で小さく頷いた。

 「ナーナ、ユーユ、どうしたんだい。ドアも閉めないで……」声を発しながら近づいてきた母親は、ナーナとユーユの傍にいる男を見た途端、驚き全身が固まったかのように声も止まってしまった。

 「す、すまない」

 「……あなた、あなたなの。どうして……」

 「すまない」

 「三年もの間、連絡の一つも寄こさないで。うっ、な、なん……」涙声が言葉にならず、三年振りに戻った夫の胸を幾度も両手で叩いた。

 「すまなかった」

 妻の頬を手で摩り涙を拭うと、二人は抱き合い嗚咽した。

 両親のその様子にナーナの瞳からも涙が滲み、ユーユはきょとんとした表情を見せている。無理もない、当時ユーユはまだ二歳だった。父親の顔も声も覚えてはいない。物心ついたときには、父親の姿はなかったのだから。

 そんな家族を久しぶりのお日様が、まるでスポットライトのように照らしながら雪を少しづつ溶かしていった。


 二日後、テラのもとにナーナたちの母親が訪ねてきた。

 「お嬢様。先日の私の暴言、本当に申し訳ありませんでした。薪のことも私たちのことを思って皇太子殿下へご進言頂いたこと。また、夫がこちらへ帰ることが出来たのもお嬢様の配慮だったと団員の方から聞きました。それなのに私は、恥ずかしい限りで」

 顔のやつれはまだ残っているが、表情から以前のような険しさは無くなっていた。瞳の奥も輝いて見える。

 「いいえ、あなただけのせいではありません。あの時は私にも非があったのですから。こちらこそ申し訳ありませんでした。それにご主人さまのことなどは皇太子殿下のお力ですので」

 「そんな。お嬢様にそのようにおしゃっていただいては…本当に申し訳ありませんでした。そして、ありがとうございました。それで、あの、心ばかりの品なのですが受取っていただけますか」 

 「えっ、私にですか」

 「はい。私が自分で紡いだ糸で織ったものですが、ひざ掛けにでもしていただければと。この様なものを失礼かもしれませんが」

 「いいえ、その様なことはありません。とても嬉しいです。広げてもいいかしら」と言って、テラが織物を受け取り両手で広げた。

 淡いピンク色の中に所々金色の花びらが散らされている。

 「美しいわ。都でも見たことがないほどに」

 「ありがたいお言葉です」

 「この金糸はどのように紡いでいるのかしら」

 「そこの、この村の北の端に流れる川底から砂金が採れるのです。金塊などはないのですが。ここの砂金の結晶はとても小さくて、少し工夫がいるのですが少量ずつ混ぜる様に糸を紡ぐとこのような風合いになるのです。長い間受け継がれたアイの村の伝統技法なのです」

 「伝統技法。だから、他の金糸と風合いが違って優しい美しさが出ているのね。うん、これだわ」とテラが何かを思いついたように目を輝かせた。


 

 

 

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