第33話 庭園の変化
テラは、帰宅から七日後に親交の深いセシリア皇女を訪ねた。
「テラ、会いたかったわ」と、セシリアがデレクと同じ紫色の瞳でテラを見つめると、テラに抱きついた。
「セシリア様、ご心配をおかけしました」
「本当よ。どれだけ心配したか。でも、良かったわ。こうして戻ってきてくれたのだから」
「ありがとうございます。ですが、セシリア様。そろそろお放しくださいませんか」と、テラが苦笑しながら言った。
「ええ。でも、何だか体が引き締まったみたいね」
セシリアは、テラの首に回していた両腕をほどくと、スリーサイズを測るように両手を動かした。
「きゃあ、セシリア様お止めください」
「フフフ」
セシリアは、テラの赤くなった顔を見てわざとらしい笑いをした。確かにシンリへの遠征は伯爵令嬢であるテラの体を鍛えるのに十分だった。
庭園に足を踏み入れたテラは、首を傾げた。
幾度もセシリア皇女と訪れている場所。デビュタントの日に、デレク皇太子と初めて会ったのもこの庭園の奥だった。
管理の行き届いていると思われる宮殿の庭園。訪れるたびに様々な花が咲き誇り木々の枝葉は輝いて見え、美しく清々しい場所だったはず。
「あのう。セシリア様、何かありましたか。何だか……」
「そうよね。やっぱり違うわよね」
「ええ、以前はもっと活き活きしていたというか。どの花も元気がないように感じるのですが」テラは、シンリへ向かう森の中を思い出し得体の知れない不安を感じた。
「庭師が変わったわけでも、怠惰になったわけでもないのよ。庭師も苦慮しているけど原因は分からないし魔法も効果が無いのよ。ここはまだそれ程でもないのだけど、奥に行くともっと酷いことになっているの」と、言うとセシリアは大きく溜息をついた。
デビュタントの日にテラが落ちかけた庭園の奥にある池も様変わりをしていた。透明に近かった水は濁り、周囲の木々の葉は枯れ落ちている。魔法で管理されている庭園は、多少の気温変化はあるものの木々たちにとって生存を脅かすような環境になることはないはずであった。
「似ています」鳥のさえずりも聞こえない静まり返った庭園にテラの声が響いた。
「それは、シンリに似ているということなの」
「はい。セシリア様、他に何か変わったことは、ありませんでしたか。庭園以外においても」
「う~ん、デレク兄様にも聞かれたのだけど。そうそう、兄様も驚かれて何があったのだとおっしゃったのよ。一つ気になることがるのだけど」
「それは、どのようなことでしょうか」
「あっ、ごめんなさい。お兄様から他の誰にも話してはならないと言われていたんだわ。テラになら話してもいいと思うのだけど」と、セシリアがばつが悪そうに自身の右の耳たぶを触りながらテラの顔を見た。テラから見ると完璧なお姫様であるセシリアの悩ましい時のいつもの癖だった。
「いえ。セシリア様、お謝りにならないでください。私が踏み入ったことをお聞きしてしまいました」
「いいえ、テラ。今はまだ言えないけど、いずれ話すべき時が訪れると思うの」と、セシリアがテラの瞳を見つめた。
テラは、何かが起こり始めていることに不安を感じ、帰りの馬車の中で思いを巡らしていた。
シンリとは違い都の中心、それも皇族の住まう場所での不吉な予兆。
「セシリア様やデレク殿下は大丈夫かしら」
その時テラは、いずれ自分に迫る危機をただ漠然とした不安としか感じていなかった。
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