第27話 まだ帰りません
テラが、シンリに訪れてから二か月が経とうとしていた。
テントでの生活にも慣れ、シンリに知り合いも出来た。テラは、救護所に通いながら時間があれば一人でシンリのいろいろな場所に赴いた。
令嬢から更にかけ離れていく自身の姿が、可笑しくもあり充実もしていた。
「なあ、テラ。もう十分だろう。帰っておいで」
「いいえ、お兄様。私はまだ帰りません。」
「いや、みんなテラを待っているんだよ。迎えに行くからさあー」
「ダメです。帰りません」と、言ってテラは水晶に黒い布を掛けた。その瞬間、シリウスの慌てて引き留める声が響いたがテラは、気にしなかった。
兄であるシリウスは、テラがシンリに赴いて以降毎日のように魔法通信を使いテラへ帰るように促していた。魔法通信はこの世界では手のひらに乗るほどの水晶を介して行えた。テラは、魔力がないため事前にシリウスが自分の魔力を込めた水晶を持たせていたのだ。
また、疫病に対する指針が整い救護所も軌道に乗ったことからデレクからも帰還を勧められていたが、まだ帰る気持ちになれずもうしばらく滞在できるように願い出ていたのだった。
その理由が、充実した日々なのか別のものなのか、本人にも分かっていなかったのだが。
「やあ、テラ。元気にしていたか」
「もう、お兄様。今朝お話をー」と、言いながら水晶を見たが何も映っていない。
もしかしてと振り返ると再び声がした。
「やあ、来ちゃったよ」と、シリウスが笑顔でテントの入り口に立っている。
「お、お兄様、どうして」
「そりゃあ、心配だろうが。男どもの中にこんなに可愛いテラをいつまでも置いとけないだろう」
「う~。お兄様、魔法団の方達はとても親切ですし礼儀正しい方達ばかりです。それに、まだ帰る気はありませんから。」
「いや、テラ。もういいだろう。父上や母上も心配しているんだ」
「うっ。」痛いところを突かれ返す言葉が見当たらなかった。その困った顔を見てシリウスは顔を横に振り、仕方がないという表情をした。
「テラ、保護魔法をかけなおすよ。」
「お兄様、と言うことは、」
「ああ。テラは、頑固なところがあるからな。実は、父上や母上も納得している。ただ、保護魔法だけはしっかりとしておかないとな。もうそろそろ効力が落ち始める頃だろうから」と、言うとシリウスはテラを中央に立たせ何やら呪文を唱えだした。シリウスの額の家紋の光は、更に強く大きく輝きテラを包み込んでいった。
テラは、シリウスの保護魔法に陽の光に包まれているような温かさを感じていた。
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