第25話 回復したはずなのに

 

 テラは、以前懺悔の祈りをしたシンリの中心部にある広場に立っていた。当時泉の水は枯渇しかけており、噴水もその姿を成すことはなかった。

 だが今は、湧き出る水によって泉は満たされ噴水も扇状に広がり、その水を陽の光が照らし七色の虹が架かっている。シンリの名所の一つと言われるだけあって、美しい光景である。

 テラが、その美しさに見入っていると、ふいに幼い子の声が響いた。

 「おねえちゃん、」と、ニコニコと男の子がテラの姿を見つけて駆け寄ってきた。

 「これこれ、お嬢様に向かって失礼なことを。申し訳ありません」

 後ろから追いかけるようにやってきた女性の顔にテラは、はっとした。救護所で幼い孫が不安そうな眼差しを向けていた女性だった。

 「あ、あの時の。お体は、もう大丈夫なのですか」

 「はい、あの時お嬢様に触れていただいてからすっかり楽になりまして。今日、救護所を出て家に帰るんです」と、弾んだ声で言った。顔色も良く高齢ながら活気に満ちている。

 「私は何も。ただ、お背中を少しさすっただけで。魔法士様が、何よりお孫様が力をくれたのでしょう」

 テラの慈愛の満ちた笑顔とその姿が、光り輝いているようにその女性の目には、映った。

 「本当にお嬢様は、女神様のような方です」

 「いっ、いいえ。そのようなこと―」

 「めがみさま。めがみさま」と、テラの言葉を遮りながら男の子がぴょんぴょんと跳ねた。

 テラは、その女性の回復に安堵した。本当に良かった。不安気だった男の子も今では、無邪気さを取り戻している。嬉しい。

 「水が戻りましたね。」と、泉に老婆が眼を遣りながら言った。

 「本当に。これほどにも美しく清らかな泉だったのですね。」

 

 

 一番最初に作られた救護所に隣接するテント内でデレクとカノン、そしてテラの三人は、頭を抱えていた。

 無料の救護所が増設されて以降、救護所に入った人々は順調に回復し出ていく者も増えた。それなのに、疫病の総数は減ることはなかった。何がいけないのか。回復が不十分のまま救護所を出してしまったのかとも推測した。

 だが、そのようなことはなかった。

 救護所を出るには、指針の条件を満たした者のみが可能となる。その指針は、デレクの指示で作成されたもので、具体的な食事摂取状況や発熱の有無、呼吸状態などいくつものチェック項目が課せられていた。

 だから、先程広場で偶然に再会した女性も見るからに問題はなさそうだった。孫との二人暮らしも十分可能だろうと見て取れた。

 では、何がいけないのか。デレクやカノンからも答えは出てこなかった。

 「あのう~、魔法団以外の有料の救護所を視察してみてはいかがでしょうか。何か見えてくるものがあるかもしれません」

 「そうだな。ここで頭を抱えていても何も始まらないな」

 デレクの言葉で有料の救護所の視察が急遽決められた。

 

 

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