第24話 救護所の増設
デレクから指示された救護所の増設は速やかに行われた。
テラもデレクとカノンの協議に加わり、設営場所やベッドの配置などを共に考えた。
結果、シンリの東西南北に分散する形で巨大な救護所が設置された。ベッドの間隔は大人が間に立ち両手を広げてもベッドに当たらないほどに拡がった。
だが、テントそのものも拡大されたため収容可能人数はそれまでの三倍まで膨らみ、実質、シンリ在住の平民の数を上回るほどとなった。
本来は、救護所は四か所に分けるよりも一か所に設置した方が管理がし易い。
だが、そうすると場所によっては救護所に向かいたくても遠くて辿り着くのが困難になる。ましてや病人だから尚更だ。
だから、できるだけ分散し均等な位置関係に救護所が配置されるべく協議が成された。
「あのう、一つお伺いしたいのですが」
「ああ、テラ。何かな」と、デレクが優しく言った。
テラがカノンの顔を見ると「ああ。」と、頷いた。その表情には、以前のようなテラに対する敵意は感じられない。
「ご家族の方たちの面会や付き添いは如何なされますか。取り決めがあった方が良いのかもしれません」
「そうか、確かにな。それも決めておかなければな」と言い、デレクは腕を組んだ。
「今までは、特に取り決めをせず自由にしていましたが、四か所に分散していることを考えると確かに一定の決め事があった方が良いですね。」と、カノンも肯定的な意見を言った。
「そうだな。一定の指針を設けることで、疫病に対しての対応の是非が見えてくるな。面会についてもそうだが、全体的な指針もこの際に作成した方が良さそうだ」
罹患者は日々増加の一途を辿っていたために速やかに指針の作成と、ほぼ同時進行で備品などの準備、受け入れなどが行われた。
テラも連日夜遅くまで指針の作成や備品のチェック、受け入れ者の把握などを行った。デレクが幾度かテラに休むように声をしたが、テラは受け入れなかった。魔法力のない自分にもできることがあるのなら、動かずにはいられなかった。
テラの気になっていた家族などの付き添いや面会については、条件を付けたうえで可能となった。それは、その者もすでに罹患している可能性が高いこと。何より親しい人が傍にいることで精神的に支えられ、回復にも良い影響があるのではないかと思われたからだった。
そのために見舞いや付き添いをする者は、テント入室前後に手洗いを行い、スカーフを目だけ出る様に頭から巻き付ける取り決めになった。
その手洗い場も、患っている者用、家族用、スタッフ用と別々に設置された。
増設された救護所の運営は7日ほどで軌道に乗ったようだった。
「テラ、良くやってくれた。これでシンリの民が多く救われるはずだ」
「いいえ、私は何も。」
「いや、ご令嬢。助かりました。当初の失礼な言動をお許しください」
カノンの真摯な言葉にテラは、驚きを隠せず目をしばたたかせた。
「い、いえ、私の方こそ」
カノンの両親は困窮の生活の中で病に罹り、まだ幼いカノンの目の前で衰弱し亡くなったと、後に本人からテラは聞かされた。
だからこそ、当初は令嬢であるテラの意見に反発したのだった。辛さと優しさからの言動っだったのだろうとテラは、思った。
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