第17話 神様ではないけども
テラは、自分が置かれている状況が全く理解できなかった。
夢の中にしても突拍子なさすぎる。それとも、私は天国に召されたのだろうか。この方たちは、神様なのかしら。
淑女教育の一環として常に平静を装う訓練は受けていたが、もはや許容量をとっくに過ぎている。取り繕うにも声が震える。
「あ、あのう。お二人は、か、神様でいらっしゃるの…ですか。こ、こちらは何処なのでしょう。初めて来ましたが、もしかして天国という所なのでしょうか」
テラの問いに二人は顔を見合わせると、笑いを堪えるために顔を引きつらせた。
「いやいや、天国ではない。森の中に変わりはないが、結界を張っているから違う空間に感じるのだろう。テラを惑わせてしまったようだな。エスプリ、説明してやりなさい」
「テラ、驚かせてごめんなさい。私の名は、エスプリ。これから順に説明するわね」と、言うとその女神様と思っていた美しい女性が語りだした。
「まず初めに、私たちは神ではないのよ。でも、近しい存在と言ってもよいかもしれないわね。精霊なのよ。隣のおじいさんは、私の父でありこの世界の精霊王でもあるの。」
「えっ、精霊王、、さまですか」と、驚きのあまりテラは裏返った声になった。
「ちなみに私はこの国の初代皇后でもあるのよ」
「ええ―」さらりと話された内容が濃すぎてもう何も言葉が浮かばない。口が開いたままになる。淑女からは、さらに遠のいていく有様だ。
「驚くテラも可愛いわね。ねえ、お父様」
「ああ、私たちのテラは特別だからな」と、どこかで聞いたような言葉を発しながら精霊王はユスラウメの朱い実の付いた枝をテラに差し出した。
「のどが渇いただろう。木の実で潤すといい。」
テラがその実を一粒口に入れると、甘酸っぱさが口に広がった。渋みがなくこれほど美味しい実は初めて食べた。
余韻に浸っていると「此処の実は格別だからね。もっと食べなさい」と、嬉しそうに精霊王が言った。
「テラ、食べながらでいいから聞いてね」と、優しい声で初代皇后が再び話し出した。
テラが、エスプリの声に耳をそばたてると、遠く高い空から甲高い鳥の声が響いた。空は、どこまでも青く澄み切っていた。
やはりこの場所は、同じ森の中にありながら異なった場所なのだ。
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