第15話 祈りの歩み
森を更にシンリに向け進んでいくと、生き物の姿を目にすることが無くなった。
ほとんどの草木は枯れ、まるで死へと続く森のように見える。
テラは、辛うじて枯れきっていない木々を見つけると、そっと手を当て目を閉じ心の中で祈った。
「なあ、令嬢は何をやっているんだ。」
「そりゃあ、祈っているんだろうよ。」
「でも、令嬢は、光さえ持たないのになー」
デレク殿下が睨みつけると、団員たちのひそひそ話が一瞬にして止んだ。
デレクがテラを見遣ると、祈りに集中していてこちらのやり取りに気付いていないように見受けられた。
「テラは、皇帝陛下の命を受け我らと同行している。だから、テラを蔑むような言動は、皇帝陛下の命に反するものだ。厳罰に繋がるものだと肝に銘じておけ」
珍しく厳しいデレクの言葉に団員たちは神妙な顔つきで固まった。
だが、一人だけデレクの前に一歩踏み出した者がいた。デレクの腹心の一人でもあるエドガーだった。
エドガーは、剣の達人でもあり魔法力も強いため長年皇太子の指導役を担ってきた人物の一人だ。年齢も他の団員たちより高いこともあり魔法団のお目付け役的存在となっていた。
「殿下、確かにおっしゃる通り、団員たちの言葉は無礼で魔法団そのものも貶める恥ずべき言動であったと思います。ですが、このままの歩みでは、この森を抜けるのにどれほどの時間を要してしまうのでしょう。このような間にもシンリの民たちは苦痛の中にいるのです。だから、一刻も早くこの森の状態を見極めてシンリへ辿り着くべきではありませんか。」
「ああ、そうだなエドガー。私も早くシンリを目指すべきだと思うのだが」
デレクは腕を組み少し思案した様子を見せた後に再び声を発した。
「やはり、もうしばらくは現状のまま進むことにする。」
「何故ですか」と、他の団員から上がった声をエドガーが制した。
「きっと、殿下には何かお考えがおありなのでしょう。私たちは、殿下の指示に従うまでです」
その後もテラは同様に祈りを繰り返しながら、まるで牛歩の歩みのように時間を費やした。
もともと、陽の光が届かない暗い森を夜の闇が包み始める頃、一行はある場所に辿り着いた。
「此処は、神殿だったのだろうか。初めて見るが、」
「ええ、殿下。私は幾度もこの森を抜けていますが目にしたのは初めてです。それに、このような場所がこの森にあることを聞いたこともありません」と、屈強な体つきのエドガーが少し興奮気味で言った。
森の奥深くにある古い神殿のような領域。
皆が驚きを隠せず立ち止まる中、テラだけがまるで吸い寄せられるように足を踏み入れていった。
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