第13話  森の中で

 眩い光に包まれながら降り立つと、足元から柔らかく湿った地面の感触が伝わった。テラが目を開けると、包み込むように回されていたデレクの両腕は、直ぐに離された。

 だが、二人の顔があまりにも近くにあり、自身の頬が火照っていくのが分かった。 テラは、恥ずかしさを隠す様に、さりげなく周囲を見回す素振りをして顔を背けた。


 目に映る木々の葉は青々とし、朝露に差し込む光が反射している。美しい森。苔むした地面は気を抜くと滑ってしまいそうだ。

 ふと視線を先に遣ると、ひと際目を引く大樹があった。

 テラは、何故だか導かれるようにゆっくりと近づき、その太い幹に触れた。古からの時を想像させられるような気がする。触れていると自身もこの森の一部になったようで、愛おしさと嬉しさを感じ何故だか「ただいま」と、小さく呟いた。

 すると、その呟きに応じるかのように、突如胸元の首飾りが眩い光を放ち、触れていた幹に人の姿が見え、「テラ、」と名を呼ばれた。

 驚きのあまりに声も出なかった。当然のことながら触れていた手を放し、ただ呆然とその大樹を見上げた。大樹の葉の隙間から高い空を飛ぶ大鷲の姿が目に入った。

 

 「テラ、大丈夫ですか。どうかしましたか」

 デレクの声に現実に引き戻され周囲を見回したが、何事もなかったかのように静寂だけが辺りを包んでいた。

 「殿下は、ご覧になりましたか」と、自信なく小さな声で聞いてみた。

 「何をですか」と、少し首を右に傾げる殿下の表情からこれ以上話すべきではないと悟った。

 「あっ、いいえ。何もございません。聞き流してくださいませ」

 デレクは、その曖昧な答えに若干怪訝な表情を見せたが、それ以上追及することはなかった。


 「ここは、どちらかというとまだウルジルに近い場所だが、此処から半時ほどシンリに向かって西に進むと、驚くことに状態が一変しているんだ」

 「そうなのですか。此処はとても美しく生命力のあふれた場所ですのに」

 「ここから先の移動は魔法を使わないが、もし辛いようなら我慢はしないで伝えて欲しい」

 「はい。殿下、お気遣いありがとうございます。ところで、もし、途中に薬草などがありましたら採取してもよろしいでしょうか」

 「それは、構わない。ただ、それほど時間は取れないかもしれないがね。ところで、薬草の知識があるのかい」

 「知識というほどではないのですが。ただ、私には、殿下もご存じのように魔法力がありません。だから、必要に迫られてと言いますか、多少の心得程度なら」

 私の返答に殿下は、きっと呆れているだろう。

 魔法力がないこともだが、令嬢が従者を連れずに出かけることなど通常は考えられない。そもそも魔法を使える従者を連れていれば薬草を使う必要もないのだから。ウルジルでお会いした時も単身での訪問にたいそう驚かれていた。


 それにしても先程は、本当のところ何だったのだろう。白い靄に包まれたおじいさんが見え名前を呼ばれた気がしたけれど。

 白昼夢でも見てしまったのかしら。

 いけないわ、気を引き締めないと。遊びで来ているのではないのだから。


 ほどなく魔法団と共に事前に送り届けられていた愛馬であるシャーリンと合流し、デレクとテラは、シンリを目指すべく森の奥深くへと進みだした。

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