第4話 拾った男の娘が可愛すぎて死にそうなんだけど、どうすればいい?

 授業が終わって蓮のところに行ったら、なんか絡まれてた。

 ギャルみてーなやつが気持ちわりぃ笑みを浮かべてて、その取り巻きなのであろう男子たちが蓮を囲んでいる。


 泣きそうな顔の蓮を見た瞬間、はらわたが煮えくり返った。


「テメェら蓮に何してるんだ?」


 拳を握りながら近づく。


 特にテメェだ。

 なんで蓮に向かって腕振り上げてんだよ?


「なんだお前は……ぐぅ!?」


 その男子の胸ぐらをつかんで、至近距離で見下す。

 顔の怖さに定評のある私に睨まれて、そいつは一瞬で怖気づいた。


「蓮にはデケェ態度とってたくせに、自分より強そうな相手にはビビるなんてしょうもねぇな」

「く、クソが……!」


 手を離すと、そいつは私を睨みながら距離を取る。

 そのタイミングで、主犯なのであろうギャルがヒステリックに喚いた。


「なんなのよアンタは!? どうして邪魔するのよ!?」

「蓮の友達だからに決まってんだろ。それ以上の理由がいるか?」


 気圧けおされて怯んだところへ、最後のダメ押しを入れる。


「こっからは蓮に代わって私が相手してやるよ。文句があるならいくらでも付き合ってやるぜ?」

「く……! 今日のところは見逃してあげるわ!」


 拳をパキパキ鳴らしたら、そいつは分かりやすく負け台詞を吐いて逃げ出していった。

 取り巻きどもは「あ、遠野さん!」とか言いながらギャルを追いかけていく。


 あのギャル、遠野っつーのか。

 ブラックリストに顔も名前も登録したかんな?


「蓮、大丈夫だったか?」

「……うん。九条さんのおかげでね……。ありがと」

「ほら、行こーぜ!」


 蓮の手を握って教室を出る。

 そのまま帰路につくが、蓮はずっと暗い顔で俯いたままだった。


 家まであと少しというところで、蓮が重い沈黙を破って口を開いた。


「もうこの格好、やめようかな……」

「あ?」


 私が足を止めると、蓮も止まった。


 ヤベェ、ドスの利いた声出た。

 ビビらせちまったか?


「見た目のせいでいじめられたこともあるし、今日だって九条さんが助けてくれなかったらどうなっていたか……。親にも受け入れてもらえなかったし……」


 蓮の瞳から大粒の涙がこぼれだす。

 ……それが理由で、家出したのか。


「だから……もういいかなって……」


 嘘つけ。今までで一番つらそうな顔してるじゃねぇか。


 気が付いたら私は、蓮の肩を掴みながら声を張り上げていた。


「いいわけねぇだろバカヤロウ!」

「ば、バカ!?」


 蓮が怯む。

 私は言葉を紡ぐ。


「私は、今のままの蓮じゃなきゃ嫌だ! 優しくて、恥ずかしがり屋で、すぐに照れて、私のために手料理まで作ってくれる、世界一可愛い蓮じゃなきゃ嫌だ!」

「ふぁ、ふぁい!?」


 蓮が一瞬で茹蛸ゆでだこのように真っ赤になる。


 そこまで叫んだところで、気づいた。


 ……なんだ私、蓮のことめっちゃ大好きじゃん。


 だったら、それを真正面からぶつけてやればいい。

 蓮に目を合わせて、思いっきり叫んだ。




「私の、嫁になれ!!!」




 私は蓮が好きだ。

 もっとからかって、可愛がって、甘やかしたい。

 宇宙一可愛い蓮をずっと眺めていたい!


 ありったけの思いを込めて、本気で叫んでやった。


「……ボクはボクのままでいいの?」

「私がいいって言えばいいんだよ。なんか問題あるか?」

「……相変わらず九条さん…………ううん、伊織いおりちゃんらしいね」


 蓮は涙をぬぐって、強い意志を宿した瞳で私を見据える。


「伊織ちゃんのお嫁さんになる! これからはボクが、伊織ちゃんが真っ赤になるくらい照れさせてみせるんだから!」


 いたずらっぽい笑みを浮かべてそう言ってきた蓮は、言い終わるなり顔を隠して俯いてしまった。

 おうふ。何もかもが可愛すぎて尊死しそうなんだが?


「伊織ちゃんのこと大好きだよ」


 小さな声で蓮がささやく。


 恥ずかしくて顔を隠したままの蓮は気づかない。

 私の顔が、蓮よりも真っ赤になっていることに。



 拾った男の娘が可愛すぎて死にそうなんだけど、どうすればいい?


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拾った男の娘が可愛すぎて死にそうなんだけど、どうすればいい? ~何もかもが可愛すぎて尊死しそうなんだが?~ 狐火いりす@『不知火の炎鳥転生』商業化! @The-kitakitune

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