調達
Λ
「ベル、これを持ってて。少し重いから落とさないでね。」
フィオナーレは銀色の液体がたっぷり入った瓶を
不透明でサラサラした輝く鉄の水を揺らしながら見入りました。
「綺麗でありますね。この不思議な液体は初めてみました。何でありますか、これ?」
「それは水銀よ。
……特に味はありませんね。
ただの水みたいな感じであります。
「やめておきなさい、ベル。それ、普通の水より重くて毒性が強いから飲んだら危険よ。少しなら大丈夫だけど。」
そう言ってフィオナーレから、ちり紙を渡されました。
「水銀は錬金術の研究や医療、火薬や顔料まで様々な用途に使われるの。でも、精製には有毒なガスが多く出るから鍛冶屋みたいな専門の場所じゃないと手に入らないのよ。」
金髪の少女は話しながら、細かな鉱石や粉末の小瓶を買い込んでは背中のリュックに入れていました。
自分には分からないことだらけでありますが、きっとフィオナーレのような研究者の努力や成果があって街や世界が変わってゆくのでありますね。
錬金術の材料を買い終えて、今度は食料品を買い始めた時でした。
と、そこでフィオナーレが驚きの声を上げます。
「えっ。入荷が遅れてるの?」
何事かと思って話を聞いてみると……
「わたしがいつも買ってる乳製品が軒並み品切れみたいなのよ。何でも宗教国家都市との衝突が激しくなったからって。」
どうやら隣国、その南東部産の食材が売り切れてしまっているようでした。
おそらくフィオナーレはこの前の調査任務を思い出していることでしょうか。
そういえば、
その一分隊は鎮圧されてしまったようでありますが。
「どうするのでありますか、フィオ?」
彼女は顎に手を当てて首を傾げます。
「うぅん……わたし、普段と違うものって食べたり飲んだり出来ないのよね。決まった食材や味じゃないと自分の感覚がズレるっていうか。」
国家間のいざこざはともあれ、隣国の南東部産の食材は質の良さで有名なのであります。
我が王政国家都市とは食文化が異なるのであまり気にしませんでしたが。
「話によれば、国境自体は封鎖されてないようであります。どうしても必要なら、直接買いに行くのも良いのではないでありますか?」
ψ
「宗教国家都市の南東部……王政国家都市中央部からだと馬車で何時間かしら。街道を真っ直ぐだから往復でも半日はかからないと思うけど……」
わたしは頭で距離と時間を計算してみる。
中央部から西部の端までは蒸気車で二時間ほどだったから、馬車ならその倍くらいだろうか。
とはいえ、都市区間を乗り継ぐくらいなら、多少割高でも直通の蒸気車に乗った方が楽かもしれない。
「今、家に帰っても食材は何もないし、買いに行くしかないわね。最悪、泊まりでも構わないし。」
「フィオが行くのであれば、
「ありがたい申し出だけど、仕事は大丈夫なの?それに、あなたのその格好……」
視線を落とすと、ベルファミーユのスカートにはしっかりと王立騎士団の印章が刻まれている。
「心配は無用でありますよ、フィオ。見ててください。」
彼女は肩にかけていたショールを手にすると、腰に巻いては騎士団の印章を上から隠すように被せてみせた。
そして、わたしからリュックを取って背負う。
「これでどこから見ても、
にこやかに語るベルファミーユに唖然とする。
「仕事の協力者であり、
そうして、わたし達は乗り合いの蒸気車を頼んで宗教国家都市の南東部へと向かうのであった。
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