第13話 巡り来る季節

 ――――…………


 早いもので、あれから十六年が経った。俺も、もうすっかりいい歳になっていた。

 また、今年も季節が巡る……。桜の木を見るたびに、胸が締め付けられるようだった。

 忘れるなんてできない。忘れたことなんてない。

 ――今でも、あの選択は本当に正しかったのかと問いたくなる。

 あの人は、いつだって一生懸命で、そして残酷だった。

 逃げればいいのに、そうする自分を咎めては悩んで、正面から向かっていく。そうしてそれを、俺にも押し付けていくんだ。

 まったくどうして、不思議なものだ。そんな彼女が、今でも俺の憧れなのだから。

 強くて不器用な、俺の最愛の人……。

 彼女が見たがっていたから、俺がそう決めたから、教師になった。そして、母校で英語を教えている。


 ――ねえ、いつ俺の姿を見に来てくれるの?


 貴方へ捧げたバラは、十七本になったよ。まだまだ足りない? 百八本になれば、会いに来てくれるの? そんなことでいいのなら、何だってするのに。


 ――待つだけというのは、こんなにも苦しいんだね。


 十六年はあっという間に思えて、それでも長かった。

 走るように過ぎ去った十代。

 悩みながら歩いてきた二十代。

 そして、歩く方向を見失った今。俺の生きる糧は、目標は、とうに達成してしまったんだ。

 次は、どうしたらいい?

 いつだって、通過点には貴方がいた。貴方を、貴方だけを目指して来たんだ。


 けれど……今はもう、いない――


 どんな人を見ても。

 どんな人と歩いても。

 どんな人と話をしても。

 どんな人に優しくしても。

 どんな人を愛そうとしても。

 どんな人と寄り添っていても。

 貴方の代わりなんて、どこにもいやしなくて。どんな人をも、俺は傷付けてきてしまった。

 約束は覚えている。信じていないわけじゃない。信じたい。

 それでも、一人で待ち続けるのは辛くて。一人では立てなくて。

 今すぐ、会いたいのに。

 忘れられるなら、忘れ去ってしまえたら。そうしたら、良かったのかな。

 それでも、やっぱりできなくて。

 忘れたくなんてないから。

 だから、今日も俺はここで。

 貴方のいない桜の木の下で。


 ただ貴方を、待ち続ける――


 …………――――

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