幽体。

男の意識は、宙を漂っていた。

視界は相変わらず霞かかっているけれども、飛んでいる場所が何処なのかは分かった。

今朝出発した、男の住む山がみえた。

言うことを聞かない体は、まっすぐと駅へと飛んでいく。


「じゃあ、身代わりが見つかったら私を呼んでね。頑張って~」


少女の声だった。姿は見えない。

駅が近づき、ついに男は地面と衝突した。

なんの痛みもないことにも驚いたけれども、人間が上空から落ちてきたのに、駅前を歩く誰彼も振り向かないとは何事かと、男は不思議に感じたのであった。


「あぁ、そうか。いけないんだ」


男は少女の言っていた意味をようやく理解したようである。


「誰かー!俺のことが見える奴はいないか!!」


なんとも致し方ない。駅前にはこれだけの人間がいるのだ。誰か一人くらいは見える者がいるかもしれないと、男は期待していたのである。


「だれかー!だれかぁ!誰でもいい!!俺が見えないか!!!助けてくれぇえ!!!」

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