錆だらけのバス停と漆黒の装束。

男はふと、バスの速度が落ちていることに気が付く。停車するらしい。

こんなところに集落などあったかなと勘案したが、よく見るとさび付いたバス停標識が佇んでいた。

誰かがそこに立って待っているのも、男はとらえていた。


「はて、今までこんなバス停なんてあったかな」


男は、いささか自分が見落としていた可能性があろうと解釈することにした。

いや、おそらくこのバス内にいる十数人のうちだって、気付いていた者は少ないに違いない。

ただ、普段なら猛スピードで通過してしまうというだけの話だ。


動きを止め、ドアが開いたバスに、一人の少女が乗り込む。

晴れてこそいるが外は極寒である。

この男から見れば、少女の服装は、どうも時節にそぐわないように感じた。

また、深く折り目のついた真っ黒いドレスは、この片田舎に住んでいる人間が身にまとう服装であるとは到底思えなかった。

この少女は、一体何を考えているのだろうかと、おせっかいをやいてみたくもなる。

朝からあまりにも不思議なものを見てしまった男は、その少女から目を離せなくなってしまったのであった。




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