これは特別な物語じゃない。ああ、そこら辺の有象無象だと思ってくれ。
Black History
第1話
俺の名前は國森克己。いたって普通の高校生である。まあ、普通だって相対的なものである以上、それを点と意識するとアブノーマルな特質の一つになりえるのだろうが、あいにくそこまで頭がお花畑、というよりかはオプティミズムか、な訳ではないので、なんとも思わずのうのうと生き続けているってのが現状だ。むしろここで普通への反骨心を見せることが、そもそも普通の高校生っぽいということまであるね。というのも今の時期は、いろいろな評論を読んでいると自己の拡大期らしい。今までは自分の四囲の範囲で物事を決めていたから自分のありきたりさなんて気にならなかったが、これからはその範囲が拡大していくことにより、それに焦燥が生まれるってわけだ。そして大人になると一種の諦観を抱き、これ以上足掻かなくなる。それでは俺はどうなのかと言うと、俺は何、ませているわけでもなければ、諦念を抱いているわけでもない、ただ単にそこまでに至る脳が足りないってだけだ。多分そうだろう。俺はただ漠とこう思っているだけだ。「自分らしさは自分であることから生まれる」と。そうだろう?だってそれは文字通り自分であればいいだけなのだから。
「あ~、学校なんてかったり~」
金髪にピアスを付けているいかにも不良っぽい女子生徒が俺の隣に立ち並ぶ。パタパタと胸元で顔を仰ぐ手の奥にははだけた制服からセクシュアルな胸をはだけさせ、スカートは大抵の女子生徒よりも短い。彼女の名前は前徳沙帆。この学校に進学できたからには、それこそ勉強をしっかりとしていたのだろうが、それは今のこれを見る限り名字のごとく前の徳となってしまったのだろう。
「あ~れ~?國森く~ん、私の胸を熱心に見ているようだけどぉ?」
そう言うと前徳は意地悪い笑みに八重歯をのぞかせる。
「いや、お前のその服装からは微塵も暑さを感じられなかったからな」
「え~?本当かな~?」
「お前、からかってるな?」
「からかう?なんで~?そもそも女子のあられもない姿を熱心に見た國森が悪いんじゃ~ん」
「お前なぁ……はぁ、もういい」
俺は前徳を抜き去って速足で歩く。
「ま、待ってって!ごめんごめん!からかい過ぎたから!」
そう言いつつも彼女の意地の悪い笑みは消えない。
「自覚してんならもっと気を付けろ」
「は~い」
「お前なぁ、絶対反省してないだろ」
「してま~す。國森君の言葉は全部馬耳東風に聞き洩らさなかったから」
「はぁ。……期待した俺が馬鹿だった」
クラスに行く途中でちびっこを見つけた。ちびっこ、というからにはチビなのだが、その他の、いや大抵のちびっことは一線を画すものが、そいつにはある。それは年齢だ。俺は高校二年生、つまり16歳であるから体が大きいのに対し、彼女は、俺の一つ後輩の彼女は15歳なのにその体躯なのである。その体躯とは、ちびっ子のことである。何やらメモ帳を片手に聞きまわってる彼女は人の話に熱心に耳を傾けている。彼女の名前は莇朱美。俺の部活、文芸部の後輩だ。莇が何をしているのかと言うと、実のところ俺にもわからない。ということで本人に直接聞いてみよう。おっと、ここで皆様に注意していただきたいことがある。それは彼女がいかに自惚れていようとも、つまり中二病であっても、どうか温かい目で見てあげてほしいということだ。
「おい莇、何してんだ」
俺が声をかけると話をしていた女子生徒は「あ、じゃあ私たちはこれで」と、ほほえましいものを見るような態度で教室に戻っていった。
「む、その声は、國森先輩」
「おう莇、何してたんだ」
「……己を知り彼を知れば百戦しても危うからず。私は大いなる決戦への準備をしているのです」
「お、おう。そりゃあすごいな」
「本当にそう思ってますか?」
「あ、ああ。——いや、嘘だ。そう言ったのはそんなものに巻き込まれないようにだ」
「君子危うきに近づかず。なるほど、先輩は素晴らしい人なのですね」
「あ、ああ、ありがとう」
「そして私はそんな先輩に……なるほど、これが宿世というものなのですね」
「納得しているところ申し訳ないが、さっきは何をしていたんだ?」
「先述。大戦への準備です」
「大戦って言うと?まさか世界征服をするわけではないだろう?」
「世界征服……ほう、なるほど。言い得て妙ですね。確かにそれは私の世界の幸福を掴むという点で、世界征服と換言できなくもないでしょう。矢張り先輩は慧眼の持ち主だ」
「あ、ああ。ありがとう?」
不承不承ながらもこれで体裁よく締められそうなので、というよりかはこれ以上莇と話していても頭に疑問が生じるだけだと思ったので、会話を切り上げて俺は教室に入った。
「國森克己―!」
昼休み、俺の教室に俺の名前が耳をつんざくように響き渡る。俺の名前を臆面もなく大声で呼んだ、いや叫んだのは古源千世。黒髪を短く切りそろえた、ボーイッシュな少女だ。俺はそういうのにはまったく疎いからよく分らないが、周りが言うにはいつも笑顔を絶やさないのがチャームポイントらしい。まあ、こんなところで彼女の紹介は置いておこう。俺は何度目かわからない爆音に閉口しながらも弁当をもって彼女のところへ向かった。
「いやー!今日もご飯がおいしいな!なぁ!國森克己!」
「古源、そろそろフルネームってのはやめにしないか?あとその大声も」
「なら……克己!よし!これで問題ないな!」
「大声の方は治ってないし、下の名前呼びってのはまるで俺たちが付き合ってるみたいだし、どこからどう見ても問題大有りだが」
「はは!付き合っているか!私としては構わないぞ!いや、むしろ——」
「俺が構うんだよ。それで俺を好きな人が本当に彼女だと思って諦めたらどうする。俺はこのままずっと彼女無しになるのか」
「はは!克己を好きな人はそんなにやわじゃないさ!むしろ結婚式の会場まで言って奪ってくるまであるな!」
「いや、やめてくれ。それじゃあ俺がまるで乙女かのようになっちまうじゃないか」
「ははは!」
そう言って古源は何やら楽しそうにご飯を食べる。いったい何が楽しいのやら。ここには何の面白みもない木と、普通の男子高校生しかいませんよ。
「——それで生徒会長と古泉は、実は裏ではつながっていたのです」
「なるほど、すべては涼宮の欲求を満足させるためか。実は一番の苦労人は古泉なのかもな」
俺たちは今、とあるライトノベルについて話している。対話相手は誰か。それは俺と同じ部活で、必然的に帰りも一緒になる莇朱美である。
「お!克己殿!」
「む、敵の気配」
俺を呼び止めたのは、陸上部の帰りだろう、古源千世だ。
「よお、古源。帰りか」
「そうだな!帰りだ!」
「古源千世。身長163㎝、体重52kg、好きなものは……」
「お、おお。莇は結構古源のこと知ってんだな。もしかして知り合いか?」
「いや?私は初めて会うぞ?」
「大戦に備えるのならこれくらい当然」
「な、なるほど。また大戦か……」
「大戦?要領を得ないが面白い子なんだな!ハッハッハ!改めて言うまでもないと思うが私の名前は古源千世!陸上部所属だ!」
「莇朱美。文化部所属。お互い恨みっこなしだから」
「ん?ああ、そういうことか!ハハ!そうだな!」
二人は友好のあかしとして握手を交わし、その後の会話でも相性の良さがうかがい知れた。まあ俺としては俺を挟んでの会話はよしてくれと言いたかったが、多分それはまだ安心しきれていないところがあるのだろう。
そのまま校門まで歩いていくと、今度は前徳沙帆に出会った。
「く、國森?この女子たちは?」
「ん?ああ、知り合いだ」
「そ、そう……」
何やら前徳は呟いているが、俺には当然聞こえない。
「前徳沙帆。身長159㎝、体重51㎏……」
そして莇朱美のあまりに詳しすぎるその情報には、聞こえないふりをした。
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後書きです。
今までいろいろな主人公を書いてきたのですが、そろそろいろいろなヒロインも書いてみようと思い、書いてみました。
終わり方がなぜこんなにも中途半端になったのかと言うと、途中で書くのが難しくなったからです。
これ以上書くとなるともっと長くしなくてはいけませんでした。
それは面倒くさいので止めました。
これは特別な物語じゃない。ああ、そこら辺の有象無象だと思ってくれ。 Black History @jhfjerfiphsihjkvklhsdfar
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