第60話 反響
翌日も若草物語は南東京駅前ライブを敢行した。
みらいはひるまずに歌った。
樹子とヨイチはノリノリで演奏し、良彦は淡々とベースを弾いた。
すみれは踊りながらパーカッションを叩き、コーラスした。
昨日のライブの噂が桜園学院内をかけめぐっていて、観客は増え、50人を超えていた。ジーゼンは昨日に引き続き、その中にいた。
「園田さーん!」
「ヨイチーっ!」
「良彦くーん!」
「すみれちゃーん!」
歓声をあげる客も多かった。
「高瀬ーっ!」
「みらいちゃーん、こっち向いて!」
みらいは自分を呼ぶ声があることに驚きながら歌った。
「みんな、ありがとう! あたしたちは若草物語です! バンド名を覚えてね!」と樹子は言った。
『世界史の歌』が終わり、ラスト曲に入る前に、南東京駅の駅長がやってきた。
「きみたち、誰の許可を得て、こんなところで演奏しているんだい? こんなに人が集まって、危険じゃないか!」と彼は言った。
「ごめんなさい! 許可は得ていません。こんなに集まるとは思っていなかったんです」と樹子が答えた。
「数人程度なら大目に見る。でも、これだけの人数が集まると危険だし、通行の邪魔になる。やめてくれないか?」
「はい、わかりました! みんな、ライブは終わりです! 迷惑をかけてまで、つづけることはできないわ! 若草物語はどこか別のところで活動をします! また応援してくださいね!」
「えーっ、終わっちゃうのーっ!」
「こめんねーっ! あたしたちはこれからも活動をつづけたいの! 社会の迷惑になるわけにはいかないわ!」
観客は散っていった。
「ごめんなさい」と樹子は改めて駅長にあやまった。
「私もあまりうるさいことは言いたくないんだけどさ。うちの駅前で何かあったら困るんだよ。ここは演奏会場ではないからね」
「はい。ここではもうしません。引き上げよう、みんな」
メンバーたちは楽器をケースに仕舞った。
「残念ね。わずか2日で終わりなんて」とすみれが言った。
「それだけの反響があったことを喜びましょう。明日は水曜日で文芸部の活動日だから、若草はお休み。あさって以降はどうしようかな?」
「双子玉川でやってみないか? あそこなら駅前が広い」
「えーっ、あんなに人通りが多いところでやるの? 怖いよ!」
「若草のライブをやりたくないの、未来人?」
「やりたい……」
「じゃあ、やってみましょう。失敗していいのよ、未来人!」
「そうだ! 失敗しようぜ、未来人!」
「うん。失敗するよ……」
「双子玉川か……。焦ってやることもないかな。今度は土曜日にやりましょうか?」
「そうしようよ。金曜日には期末試験の結果も出るしね。土曜日なら落ち着いてやれるだろうね」
「期末の結果! それも怖いよ!」
「怖いものだらけね、未来人は」
「怖い! 人生は怖いものだらけだよ! 楽しいものもあるけれど!」
「なるべく楽しいものを見ていたいわね」
樹子がみらいの肩を抱いた。
若草物語は駅のホームへ向かって歩いていった。
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