第61話 文芸部のミーティング

 水曜日の昼休み、いつものように樹子とみらいが学食でかけそばとカレーを食べていると、周りにたくさんの生徒が集まってきた。

「園田さんたち、面白いこと始めたんだね! ライブよかったよ!」

「高瀬、凄くいい声だったんだな!」

「今度はどこで演奏するの?」

 樹子とみらいは顔を見合わせて笑った。

「今度の土曜日に、双子玉川駅前でやるつもりよ」

「暇だったら、聴きに行くね!」

「ありがとう」

 滑り出しは好調だ、と樹子は思った。

 放課後は文芸部室に行った。

「今日はミーティングをするよ」と友永が言った。

「10月の文化祭で部誌を発行する。部員全員に何かしら書いてもらうって、言っておいたよね」

「はい!」とみらいが元気に答えた。

「もうすぐ夏休みだ。休み中に書いてね。9月になってから慌てて書いたんじゃ、いいものは書けないから」

「はい!」とみらいが答える。他の部員は黙って聞いていた。

「いまの時点で、何を書こうと思っているか、聞いておきたい。小島くんはどうだい?」

「小生は詩を書きます。夏休みにひとり旅にでも行って、書きたいと思っています」

「うん、いいね。どこへ行くつもりなんだい?」

「はっきりとは決めていません。たぶん北へ、あてどもなくふらふらと」

「キザなやつ……」と樹子が嫌そうにつぶやいた。

「高瀬さんは何を書くつもりかな?」

「わたしは短編小説を書くつもりです。SFかファンタジー!」

「うん。きみなら書けるだろうね。心配はしていない。さて、棚田くんはどうかな? 以前はエッセイを書くとか言っていたね」

「はあ……。部長、どうしても書かなくてはならないんですか?」

「書かなくてはならないよ!」

「夏休みの宿題みたいですね。わかりました。僕もどこかへ旅行にでも行って、適当に書きます」

「適当ではなく、真剣に書きたまえ!」

「はい……」

 良彦はめんどうくさそうだった。

「さて、ヨイチくんはどうかな?」

「長編冒険小説を書きますよ! 船戸与一の小説みたいなやつを!」

「いや、長編は載せられないから! 短編冒険小説を書いてくれ……」

「はい、なんか適当に書きますよ!」

「だから、適当はだめ! 精魂込めて書いてくれ!」

「ラジャー!」

 ヨイチは微笑み、友永は苦笑した。

「園田さんは?」

「若草物語について書こうと思っています」

「オルコットの小説の評論かい?」

「ちがいますよ。若草物語というのは、あたしたちのバンドです。バンドの活動記録みたいなものを書こうかなって」

「それ、文芸じゃないよね?」

「文芸ですよ。私小説みたいなものかな?」

「うぐ……。ちゃんと書いてくれよ!」

「はい!」

「ふう……。ミーティングは終わりだ。夏休み明けには、第1稿を見せてもらうからね。頼んだよ!」

「はい!」

「お任せください」

 しっかりと答えたのは、みらいと小島だけだった。

 樹子とヨイチと良彦は肩をすくめていた。

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