第55話 ライブ衣装

 5人はあざみ原駅前にある蕎麦屋に入った。まあまあ美味しいけれど、あまりお客さんがいない店だ。

「おれはカレー南蛮うどん大盛りにするよ」

「ヨイチ、前にもそれ食べていたよね」

「ここのカレーうどんは旨いんだよ」

「あたしは天ぷらそばにするわ」

「おまえこそ、前と一緒じゃねえか」

「天ぷらそばが好きなのよ」

「仲がいいねえ、樹子とヨイチくん。わたしはもりそば大盛りにするよ」

「未来人もブレねえな!」

「僕は冷やしたぬきそばを頼もうかな」

「冷やしたぬきそば、美味しいの?」

「たぶん美味しいと思うよ、すみれちゃん」

 良彦はすみれちゃんと呼ぶようになっていた。

 それを聞くと、みらいの胸中はもやもやするのだが、彼女はそれを表情に出さないようにしていた。

 良彦くんとすみれちゃんは、ふたりとも素敵な人。お似合いだよね……。

「じゃあ私も冷やしたぬきそばにする!」とすみれは明るい声で言った。彼女は若草物語のベーシストに惚れている。

 店員に注文し、彼らは料理が届くのを待った。

「ライブのとき、何を着ようか?」と樹子が言った。

「え? 制服じゃだめなの?」

「うーん、制服はだめなんじゃないかな。何かお揃いの服をみんなで着たいよね」

「お揃いの服着たいね! 良彦くん、何を着ればいいと思う?」

 すみれが良彦に訊いた。

「同じ色のTシャツでも着ればいいんじゃないかな」

「それいいね! ねえ、今日はこれから、服を買いに行かない?」

「練習もしたいけれど、ライブ衣装も買わないといけないわね。双子玉川のイトーヨーク堂にでも行こうか?」

「わたしもみんなとお揃いの服が着たいな。でも7千円しか持っていないよ。あんまり散財すると、今月生きていけないし……」

 みらいが財布を見ながら言った。

「千円ぐらいでTシャツは買える。行こうぜ!」

 昼食を済ませ、5人は南急電鉄線に乗り、双子玉川へ行った。

 イトーヨーク堂に入り、Tシャツを物色する。

「ねえ、このモスグリーンのシャツがいいんじゃない? 若草物語って感じで!」

 すみれが1枚のTシャツを手に取って広げた。

「確かにいいわね」

「とってもいいと思う」

「賛成」

「決まりだな!」

 あっさりと購入するTシャツが決まった。

「ねえ、お揃いのスカートも買っちゃわない?」

 すみれは買い物好きだ。はしゃいでいた。

「そんなお金はないよ……」

 みらいは浮かない表情になった。

「お金なら貸すわよ。出世払いでいいわ。みらいちゃんが歌手としてブレイクしたら返してよ」

「わたしはブレイクなんてしないよ……」

「いや、するかもしれねえぜ。未来人の歌は本当に凄いからな」

「とにかくスカートを探してみようよ。このピンクのミニスカートはどう?」

「派手すぎる。却下」

「うーん、じゃあこの淡いグレーのミニスカートはどうかしら? モスグリーンのTシャツに合うと思うわ」

「悪くないわね。かわいいかも」

「ミニスカートなんて穿くの? 無理無理無理!」

「未来人にイメチェンさせるチャンスね。女の子はモスグリーンのTシャツと淡いグレーのミニスカートにしましょう」

「えーっ、本当にこれを着るの?」

「試着してみましょうか」

 樹子、みらい、すみれはその服を試着した。

「うん。いいんじゃないか」

「3人とも、とても似合うよ」

 樹子は当然と言った感じで表情を変えず、すみれは良彦に褒められて顔を紅潮させ、みらいはもじもじしていた。

 結局、彼女たちはそれを買った。みらいのスカート代はすみれが出した。

「男子は下はどうする?」

「おれはジーンズを穿くよ」

「僕もジーンズにしようかな」

「決まりね」

「なんか疲れた……。服を買うのは苦手……」

 みらいは少しぐったりしていた。

「今日は練習はなしにして、解散しましょうか。試験勉強で疲れているしね。土日にしっかりと曲を仕上げましょう」

「そうしよう。今日は帰ろうぜ」

 彼らは双子玉川駅に向かった。

 ミニスカートは恥ずかしいが、お揃いのTシャツを手に入れて、みらいはうれしかった。

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