第4話 自己紹介1
1年2組の教室は4階建ての校舎の3階にあった。
クラスには36人の生徒が所属していて、出席番号順に席が割り振られていた。
「最初のホームルームだ。お決まりだが、まずは自己紹介をしてもらう」と小川が言った。
「持ち時間はひとり1分以内だ。友だちがほしければ、魅力的な自己アピールをしてみろ。特にアピールをしたくないやつは名前だけ言えばいい」
黒板の前に立つ担任の教師は、自分の
「簡単におれの自己紹介をしておこう。フルネームは
みらいは文芸部と聞いて、灰になった小説ノートを思い出した。ものすごく入りたかったが、あのときの絶望が身体をかけ巡って、震えた。
「では出席番号1番から始めてくれ」
ガタン、と音を立てて、背の高い強面の男子生徒が椅子を下げ、立ち上がった。入学式のとき、みらいの後ろにいた生徒だった。
「
みらいはその自己紹介を聞いて、凄い、と思った。特技があり、人生の目標がある。自分とは大ちがいだ。
つづいて、出席番号2番の生徒が立った。
「
彼がそう言うと、内進生たちがいっせいに、「ジーゼン! ジーゼン! ジーゼン!」と騒ぎ出した。
「ジーゼンって、言うな!」と慈善は叫んだ。すると、「ジーゼン! ジーゼン! ジーゼン!」という声はますます大きくなった。
「あまりやかましく言うな。おれのクラスでいじめは許さん」と小川が言った。内進生たちが静まった。
「父親が慈善事業が好きで、ぼくはこんな名前になりました。名前を変えたいです。中学生のときはジーゼンというのがあだ名でした。高校では……」
「高校でもジーゼンだ! 愛を込めて呼ぶから、いじめじゃない!」とヨイチが叫んだ。
「愛を込めて呼ぶならいいよ、ヨイチ。でもからかわないでほしい。趣味はカラオケです」
「でも音痴だ! そこがいいんだけどな。また調子はずれの『ガンダーラ』を歌ってくれ!」
「ヨイチ、きみとはもう絶対に一緒に行かない」
「1分経った。ジーゼン、そこまでだ」
「先生までぼくをジーゼンと呼ぶのですか?」
「ああ、愛を込めてな」
慈善は座った。ジーゼンくん、とみらいは心に刻んだ。
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