第3話 入学式
桜園学院高校の入学式は体育館で行われた。
1年生の1組から9組までがクラス別に整列させられた。
「2組の担任の小川だ。おれを先頭にして、1列に並んでくれ。順番は適当でいいから、とにかくピシッと列をつくれ」
アラサーぐらいの男性教師が2組の生徒に指示を出した。きちっとスーツを着ていたが、どことなくいいかげんそうな雰囲気を漂わせている。
入学式は立ったまま行われるようだ。
みらいは緊張して、うまく動くことができなかった。
「おれの後ろに並べよ」とヨイチが声をかけてくれて、みらいはおずおずと彼の後ろに立った。
男子生徒の制服は紺色の学ランで、女子生徒は紺と白のセーラー服。それが雑多に入り混じった。男女比はほぼ五分五分だ。
「国歌斉唱」と教頭が言い、音楽教師がピアノの伴奏をした。
みらいは声を出せず、ぱくぱくと口を動かすので精一杯だった。
ヨイチは君が代をものすごい大声で歌った。ときどき音程をはずしていた。わざとはずしているのではないかとみらいは疑った。日本の国歌はむずかしいメロディではない。はずす方がむずかしい。
「つづいて、校歌を斉唱します。外進生はまだ知らないだろうから、聴いているだけでよろしい。内進生はしっかりと歌うように」
内進生と外進生という言葉は桜園学院では教師も使うのか、とみらいは思った。
校歌を歌っている生徒は全体の6割程度だった。
ヨイチはまた大声で歌った。音程が合っているのかどうか、メロディを知らないみらいには判断できない。しかし、だいたい合っているようで、他の生徒と同じ音程で歌っている。とにかく声が馬鹿でかい。
「つづいて、校長先生からごあいさつをいただきます」と教頭が言った。
校長が壇上に立ち、威圧的に生徒たちを見下ろした。かなりの高齢に見えるが、背筋がビシッしていて、眼光が鋭く、衰えはまったく感じられない。みらいは軍隊の将校を連想した。
「新入生諸君、入学おめでとうございます。きみたちを歓迎します。この広々とした学び舎で、3年間を有意義に過ごしてほしい」
校長は意外と柔らかな声でゆったりと語り始めた。
「桜園学院は文武両道をめざしています。昨年度は、野球部が夏の甲子園初出場初優勝という偉業を成し遂げました」
みらいはそのことを知らず、驚いた。
「何が文武両道だよ。スポーツ入学生が成し遂げたことだろうが」
みらいの後ろに立っている男子生徒がぶっきらぼうにつぶやいた。
「ま、おれが入学したからには、甲子園連覇してやるがな」
みらいはそっと後ろを見た。身長185センチぐらいの強面の生徒がいた。彼は校長を睨みつけていた。この怖そうな人も2組なのか、と彼女は思い、顔を蒼ざめさせた。
「さて、学業についてですが、当校は成績別クラス分け制度を採用しています」と校長がつづけて言った。
「数学と理科は理系クラス、英語と国語は文系クラスに分かれてもらって授業を行います。このクラスのメンバーは定期試験ごとに入れ替わります。上位5名が上のクラスへ進み、下位5名が下のクラスへ落ちます。みなさん、切磋琢磨してください」
みらいはまた知らなかったことを聞いて、動揺した。そんなにきびしい制度があるのかと怯えた。内進生たちは平然として校長の話を聞いていた。
「ちっ、おれらスポーツ組は永遠に最下位クラスだろうよ」とみらいの後ろに立っている生徒が毒づいた。
「社会と芸術と体育はホームルームクラスで授業を行います。友情を築いてほしい」
ヨイチが後ろを向いて、みらいににっと笑いかけ、右手の親指を立てた。彼女は内心でときめきを感じたが、表情には出さなかった。
「さて、最後に私の信念を言います。一生の基礎は高校の3年間でつくられる。みなさんの人生はこの3年間をいかに過ごすかで決まります。悔いのないようにしなさい」
校長が体育館の壇から降りた。
「これで入学式を終わります。解散して、それぞれのクラスでホームルームを行ってください」
教頭が閉会を宣言した。
2組の担任教師の小川が「おれについてこい」と言った。
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