36「配属」

「はじめまして!ホワイトと申します!」


 広い図書館に、ホワイトの元気な声が反響する。


 ホワイトがいるのは、城中に備え付けられた図書館の入り口。

 地下から4階まで吹き抜けで、目も眩むばかりの巨大さだ。


 所狭しと本が並べられ、一種のダンジョンの様相を呈している。


 司書と見られる女性が一人確認できるが、他に人はいないように見受けられた。


「……」

「あの!」


 女性はちらりとホワイトの方を見たが、すぐに手許の本に視線を戻してしまう。

 ホワイトが再び声を掛けたが、今度は振り向こうともしなかった。


 ホワイトは図書館に入室してもいいのか分からず、まごついてしまう。

 そのまま暫く時が過ぎたが、ホワイトはもう一度だけ声を掛けようと息を吸い込んだ。


「ちょっと!お姉さまが本を読んでいる時は、邪魔しないで下さいよ~!図書館で大声なんて以ての外です!」


 しかし声を出そうとした時に、近くの棚から小さな女の子が降ってきた。

 長めの茶髪に赤のメッシュとインナーカラーが入っている。長めの髪を後ろにあげて、バレッタで留めているらしかった。


 背が低めのホワイトよりさらに小さく、130センチちょい位に見えた。


「すいません!配属されたホワイトです!」

「だ~か~ら~!静かにですよ!……配属ぅ?」

「はい!メイド長さんにご用命されました!」

「新人ですか~?そんなの聞いてないですが……スパイじゃないでしょうね~」


 女の子はいぶかしげにホワイトを眺める。

 ホワイトは不躾な視線を受け、つい言い淀んでしまった。


 ホワイトがセフィリスに言われて、図書館の手伝いに来たのは本当だ。

 しかし前日まで奇想の断崖におり、それを裏切った自分だ。


 スパイだと称されてしまうと、罪悪感から否定する事も出来なかった。


「きしし、顔を反らして怪しいですね~。本当にスパイですか~」

「それは……」


 女の子は顔を近づけて、ホワイトと目線を合わそうとしてくる。

 逆にホワイトは意固地になって、よせばいいのに顔を反らし続ける。


「おね~さま~、こいつ怪しいですよ~」


 女の子はホワイトを指さし、司書の女性に報告をする。


「………」

「いっ!ごめんなさい……」


 しかし女性は読書の邪魔をするなとばかりに、女の子に視線を投げかけるのみ。

 女の子も自分で口にしたことを破ってしまったため、どことなく気まずくなってしまう。


「……とりあえずロビーの掃除でも、しといてくださいな」

「わ、分かりました!」


 女の子はポケットから掃除道具を出すと、ホワイトに図書館の入り口付近の仕事を割り振るのだった。

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