35「新しい朝」

 目を覚ましたはずなのに、まだ夢の中にいるのかとぼやけた。


 シーツの甘い匂いと柔らかい感触。

 朝日を品よく遮る刺繍の付いたカーテン。


 おとぎ話の中みたいで、幸せで、満ち足りて、罪悪感に引きずり込まれそうになった。


 見慣れた私の部屋ではなかった。

 徹夜して泊まり込んだ奇想の断崖の事務所でもない。


 お城の一室。

 天蓋の掛かった高価なベッドの上だった。


「起きていたのですね。おはようございます」

「お、おはようございます!」


 部屋の扉が開き、メイド長さんが入ってくる。

 寝巻のメイド長さんは夢の住人かと見紛うようで、自分が寝ているのか分からなくなった。


「準備が済んだら、仕事の前に軽く食べましょう」

「よ、用意してくれたんですか?」

「ええ、ホワイトの分もあるわよ」


 メイド長は涼しく笑って部屋から出ていく。

 あんなに綺麗な人に呼ばれたことが無くて、口にしたのが自分の名前だと理解するのに時間が掛かった。


「す、すいません!急いで準備します」


 暫く夢見心地だったが、慌ててベッドから飛び降りた。

 足を引っかけて床に顔面を打ち付けて、ようやく自分の日常だと思い知った。

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