34「ぶつかり合う2人」

「ウルトラソードダンス『極大大十英傑・乱舞』!!」

「『黄金の暁』!!」


 10メートル以上の巨大な刃先が十本出現し、全方位から切り裂く。

 光速の一突きが、心臓を抉り去った。


「来たか………!!さすがだ…………」


 副メイド長オンスロート。

 メイド長セフィリス。


 2人の最大火力が、容赦なくジャスティスに叩き込まれる。

 ブラックを攻撃しようとしていたジャスティスは、成す術もなく直撃を受け、力なく落ちていった。


 ―――遅れて光る閃光と轟音。

 常軌を逸脱した衝撃は、空間さえも歪め狂わせる。


「ちょ……マジ……?」


 雷に焼かれる筈だったブラックは、突如現れた2人に命を救われた形になった。

 しかし周囲一帯には、集まってきたメイド達が戦闘態勢で立っている。


 そもそもメイド長と副メイド長……ブラックは彼女達の顔は知らなかったが、実力からそれ相応の地位と判断した……に来られてしまっては、抵抗できる筈もない。


 絶望する事すらばかばかしくなった。

 自身が満身創痍である事を思い出し、虚脱するに任せて身を沈める。


「ライガー様を第一に確保。必要人員以外は戦闘態勢で状況確認に努めなさい。誰も入れないように!」


 メイド長がてきぱきと指示を出す。

 指示を受けたメイド達は倒れ伏すマコトの元に駆け寄ると、肉体や傷を確認し始めた。


「……半死人相手に物々しくない?」


 ブラックの元にも3人のメイドが駆け寄ってくる。

 3人とも武器を携えており、今のブラックが勝てる可能性は皆無だった。


 だと言うのにメイド達はブラックを警戒しているのか、銃口を向けて引き金を引こうとした。


「止めるんだ、君達!彼女はこの私からライガー様を守ったんだ……讃えられこそすれ、弾丸を浴びせられる謂れはない筈だ」

「へ?」


 死を覚悟したブラックだったが、彼女への凶行を止めたのはジャスティスだった。

 ジャスティスは動くのもやっとという状態だが、壁に背を付けて座り直す。


 あろうことかブラックを助けるつもりらしかった。


「ちっ!黙っていろ!」

「ぐ……!!手厳しいな……」


 オンスロートが刃の無い刀を振るう。

 見えない斬撃がジャスティスを切り裂き、鮮血を壁一面に塗りたくった。


「……ちょっ……助けるのか助けないのか、どっちなのよ……」


 そして返す刀をブラックへと振るう。


「止めなさい、オンスロート」

「邪魔するな、メイド長」


 セフィリスがオンスロートを静かに諫める。

 オンスロートはセフィリスが躊躇なく攻撃する気であることを読み取り、やむなく攻撃を止めた。


 しばし2人の間で睨み合いが続き、部屋の中に緊張が走る。

 見守るメイド達は、息すら行う事ができなかった。


「ブラックもジャスティスも騒動の重要参考人です。彼女達を殺すと言うなら、『口封じをしたがっている』と判断しますよ、オンスロート」

「は!反逆者を生かそうとする、お前の行動の方が怪しいさ。メイド長」


 セフィロスが何を言っても、オンスロートが退く気配は感じられなかった。

 無駄な時間を食っている時ではないと、セフィリスは溜息を吐く。


「……では面倒な建前は止めましょう。領民もメイドもライガーの大事な資産ですから、勝手に殺す事は許されません」

「マスターが杞憂せぬように、不穏分子は先に殺しておくのが忠義だろうが」


 セフィリスの主張に、オンスロートは真っ向から食って掛かる。


「そしてライガー『様』だ!マスターの姉弟子か知らないが、無礼を行うなよ」

「それに関しては、気を付けます」


 セフィリスとオンスロートは尚も視線をぶつけ合う。

 そこにおずおずと近付くメイドが居た。


「あの……やはりマスター……ライガー様、ご本人の様に思えるのですが」


 それは最初にマコトに近寄り、傷や体などを確認していたメイドだった。


「分かりました。では最優先で治療を行ってください」


 セフィリスは治療の指示を出すが、オンスロートは報告に来たメイドに詰め寄る。


「おい!間違いないんだろうな!偽者の可能性があるなら、好きにやられる前に殺すべきだろ」

「ひ!か、体はライガー様で間違いないと思うのですが……」

「思うのですが、じゃないんだよ。マスターの偽物が好き勝手したら、この領土はどうなる?分かってて判断したのか?」

「い、いえ……その……」

「やめなさい、オンスロート」


 メイドを詰めるオンスロートに近付き、セフィリスは声を潜めた。


「仮にライガーが偽者でも、その姿でここにいることには価値があります」

「てめぇ!!」


 身も蓋もない言い分に憤慨し、オンスロートはセフィリスの襟を掴もうとした。

 セフィリスは迫る右手をいなし、逆にオンスロートの懐に入る。


「偽者であるなら即刻殺すべきだ!お前には忠義がないのか」

「どんな手を使ってでも、この領地を存続させる。そして領域に昇華させる。それがライガーのためにできることよ。本物が居ないのなら尚更ね」

「マスターは私達さえいれば、そこが領地だと言ってくれるさ。偽者の冠など不必要だ」

「ルドワイエが居ない時なら、それでいいでしょう。今は打てる手を狭めないで。しかもルドワイエの後ろには、リューインが付いている可能性もあるわ。」

「偽者を許すのか?いーや、マスターを騙るなど許される訳がない!殺すべきだ」

「偽者とは判明していないわよ」

「本物だと思うのか?一目見ればわかるだろう!偽者がマスターの顔で存在する事すら汚らわしい。許されないことだ」

「……副メイド長ですら洗脳を疑われている状況です。何があってもおかしくはないの」


 セフィリスは強い瞳で、オンスロートの顔を見上げる。

 オンスロートは暫く考え込んでいたが、舌打ちをしてセフィリスから離れた。


「私はジャスティスに話を聞く。異論はないな」

「殺さないように」

「ああ、殺してくれと自ら言っても殺してやらないさ。裏切り者が、死んだくらいで贖える訳がないだろう」

「情報を聞き出すのよ。制裁ではないわ」


 セフィリスが釘を刺すが、オンスロートは何も返さない。

 無言でジャスティスの髪を掴み、部屋の外へと引きずっていった。


「カレン、監視してきなさい」

「私ですかぁ!?」


 マコトを運ぼうとしていたカレンは、突然指名されて愕然とする。

 抗議の視線を飛ばしたが、セフィリスの有無を言わせぬ視線にシュンとなってしまう。


「オンスロートさんがジャスティス殺そうとしても、私じゃ止めらないですけどー」

「止めなさい」

「は~い……無茶言うなぁ」


 カレンは頬を膨らませながら、しぶしぶ部屋を出て行った。


「……まさかこんなことになるとは」


 カレンがオンスロートを追っていったことを確認し、セフィリスは部屋を見回す。


 部屋の天井が抜け、上の階の廊下の壁にも穴が開いている。

 あのジャスティスが暴れたのだから仕方がないが、修復できない神の城が破損したのは大きな痛手だった。


 いや、そんな事よりも問題が山積みだ。

 だってあのジャスティスがこんな事をしたのだ。


 何よりもまっすぐで、義に厚く、賢い彼女が。


 洗脳されていたのか?

 別の理由があったのだろうか?


「情けない……洗脳感染を防ぐことに手いっぱいで、疎かになっていた。ここまで動いて来るとは」


 全容把握に努めたいが、ジャスティスは奪られてしまった。

 お互いに信用できない今の状況で、オンスロートが全ての情報を共有するとは限らない。


 せめてブラックから情報を集められるだけ集めなければならない。


 何か一つでも間違えれば、この領土は……メイド隊は失われてしまう事だろう。


「……」


 治療室に運ばれていく――を横目で見る。

 今は判断を下すべき時ではないと、静かに目を瞑った。

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