33「フルバースト」

「Naked bullets 10th『FULL Burst』!!」


 満身創痍ながらもブラックが立ち上がり、詠唱を行う。


 先程の瓦解攻撃を受けた時に、奪った拳銃は失われてしまっている。

 ならばと自らの十指に、直接魔弾を込めていく。


「うく……!!」


 指が魔力に耐えられず、肉が裂け、血が滲んでいく。


 ブラックが銃を使うのは、道具を使った方が威力が高いという理由が大きい。

 ただブラックの魔術の性質上、生身だと肉体側が損傷してしまうという事情もあった。


 しかし今はそうも言ってられない。

 マコトは倒れ、自身も立ち上がるのでやっと。


 一方のジャスティスは鬼姫から受けた傷はあるものの、余裕で戦える状態だ。

 せめて一撃入れないと、逃げ切る事は出来ない。


 一度捕まって逃亡している身だ。

 再度捕まれば2人とも無事で済む筈がないだろう。


 戦わなければ未来はない。


「セット……完了……」


 ブラックの詠唱完了に、周囲の魔力が共鳴する。

 空中に10の魔法陣が描かれ、一斉に青き魔力砲が発射された。


「いっけぇええええ!!」


 発射の衝撃で部屋が揺れ、床に散らばった瓦礫が吹き飛んでいく。


「なるほど!やはり君は強いな」

「うそっ!!!」


 対するは赤き熱線。

 ジャスティスが羽を振るうと、10本のインフェルノ・バスターが照射される。


「1本でえぐいのに……あれ摩擦で撃つんじゃないの?」


 青い光と赤い光はぶつかり合い、轟音を立てる。

 衝突は目を焼く光を放ち、余波は肌を焦がしていく。


 青と赤の光が、互いに道を空けろと暴れ狂う。


「く……!」


 ブラックの踏んでいた瓦礫が砕け、体勢が崩れかける。

 何とか持ち直すが、ずるずると後ろに下がっていく。


「はああああ!!」

「さすがだな!」


 拮抗した衝突の波紋で、周囲の壁が焼け焦げていく。


 青と赤の威力は互角。

 いやむしろ破壊力ではブラックの全力の方が上であろう。


 しかし撃ち出す砲台の性能に差があり過ぎた。


「うく……!」


 ブラックの指が弾け飛び、撒き散らされる血が一瞬で蒸発する。

 痛みで魔弾がブレ、赤の衝撃波が押し込んでくる。


「きゃああ!!」


 ブラックは爆発に吹き飛ばされ、地面を転がっていく。


「くふっ……」


 暫く転がり続け、壁に衝突してやっと止まる。

 勢いよく頭を壁にぶつけ、ぐったりと横たわった。


 ジャスティスは笑みを浮かべながら、悠然と降りてくる。

 ブラックは朦朧としながらも立ち上がろうとする。


(立て……ない……掴め……ない?)


 しかし掌が半ばまでが失われた事を把握できておらず、もぞもぞと芋虫みたいに蠢くばかり。

 仮に動けても、折れた脚では逃走は叶わないだろう。


「その攻撃は……摩擦がないと使えないんじゃないの?」


 ブラックがジャスティスがいるであろう方向に、目線を向ける。


「ん?ああ、反転状態では正義を消失させる事しか出来ないと読んだのか。さすがだ!それは正しい」


 ジャスティスは空中で立ち止まり、足の裏で空気の階段を叩き、コツコツと鳴らして見せた。

 それは空気に摩擦を発生させて、体重を支えているに他ならない。


「確かに反転状態の私は、正義を消す事しか出来ないさ。だがね、目の前の正義を消す事は、他の正義を生むことに他ならないのだよ」


 摩擦を発生させる事と、摩擦を消して別の場所に新しい摩擦が生まれるのは同義だと自嘲する。

 ブラックが唇を噛んだのは、一体どういう想いからだったのか?


「むしろ摩擦を消失させる反転状態こそ、より強い摩擦を生めるかな。まったく皮肉なものだ」


 ジャスティスは右手を掲げ、部屋中の魔力を統制する。

 微粒子や水がぶつかり合い、分裂し、摩擦帯電が起きていく。


「っやば!」


 先行荷電により捉えられる感覚。

 ブラック達の頭上に雷が発生していく。


 逃げようにも逃げられる筈がない。

 部屋に残った魔力の全てを使われた攻撃を防ぐ術もない。


「さあ、神の雷を君たちに与えよう!地に堕ちた私の正義と共に」


 ジャスティスが祈りを捧げるように天を仰ぐ。

 ――――閃光と轟音が鳴り響いた。

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