29「洗脳感染」

 セフィが部屋から出ると、黒髪ボブのエルダーメイドが待っていた。

 メイドはセフィの姿を見ると軽くお辞儀をし、すぐに歩き始めた。


 セフィもメイドに心得たもので、並走しながら状況の確認をする。


「どうしましたか、エリス?」

「恐らくルドワイエ様が動き始めました」

「なるほど」


 一言で大体の事は察したらしく、セフィは足を速めた。


「ところで部屋に誰かいたようですが、よろしいのですか?」

「気にしなくていいです。新人のメイドですから」

「喜ばしいですね。歓迎の準備はしないと」


 エリスは諸々の感情を精査して、笑顔を選択した。


「必要ありません。彼女はルドワイエの魔法が掛かっていないであろう貴重な駒です。軽々に他のメイド達と会わせたくありません」

「メイド長もルドワイエ様の洗脳は、『感染』すると考えているのですか?新人のメイドに洗脳が感染ると」

「洗脳されたメイドの数からいって、拡散されてる可能性は高いでしょう。しかも副メイド長権限の情報が漏れている事から、副メイド長にも感染していると見られます。副メイド長がルドワイエと接触した記録はないですからね」


 セフィは額を押さえ、苦々しく吐き出した。


「ライガーも様子がおかしいし……こんな時に」

「タイミングを合わせての来訪ですかね?」

「それも視野に入れておかないといけないでしょうね」

「ルドワイエ様はこの領土を乗っ取るつもりでしょうか?」

「もしくはルドワイエの裏で糸を引く者がいるのでしょう」


 セフィはエリスの方を何とはなしに見た。


 パワーC

 スピードAA

 耐久力C

 魔力C

 魔力障壁D+

 魔力干渉力E

 総合B-


 特に何もしていないのにステータスが頭に入ってくる。

 エリスのポジティブスキル『生真面目』によるものだ。


 表層のステータスまでなら、全ての人間に無条件で開示される。

 エルダーとしてはあまり強くないが、セフィが彼女を重宝しているのは、このスキルからくる信頼に拠る。


 ルドワイエの魔法を受けた場合、ステータスが変化・上昇する事が分かっている。

 とはいえ日々の研鑽や体調でステータスは変わるので、数値だけで被洗脳を判断する事は出来ない。


 ただ毎日毎時毎分、ステータスを確認できるエリスに関しては別だ。

 逐次チェックしていれば、ステータスに特異な変化はないと言い切れる。


「ステータスの数値で信用できるかを判断しないといけないのは、我ながら情けないわね」

「そうですか?数値でコミュニケーションが取れるのであれば、それほど楽な事もないと思います」

「楽というのは、後ろめたいものなのです。エリス」


 セフィの言葉に、エリスは興味深げに頷く。


「覚えておきますね」


 エリスは今度も笑顔を選択し、へにゃりと表情筋を弛緩して見せた。

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