25「ファンダメンタルファルス・パペットコア(人の人たる獣たる)」
客室は非常に豪華で煌びやか。
普通の家が4軒は入るのではないかと思える広さに目を見張ってしまう。
豪勢な部屋に対して、ある者は憧れ、ある者は驚き、またある者は富めるものへの怒りを覚えていた。
それは彼らの奇想の断崖としての活動根源たる、重大な衝動と言えただろう。
ただ誇るべき感情は、美の暴力で一瞬にして忘れ去られてしまう。
「ああ……女神か……」
「き、綺麗だ……」
奇想の断崖のメンバーは部屋で待ち構えていた女性を目にして、憧憬のみに支配される事となった。
身長としては160センチほど。長いブロンドの髪に端正な顔立ち。綺麗系よりはかわいらしい顔つきで、豊満というよりはスレンダーな体つき。
しかし妖艶な表情や堂々たる風格から、絶世の美女と呼べる魅力が匂い立つ。
男達は自身の理解を越えた美に、自ら思考を放棄してしまった。
玉座に座って男達を待ち受けていた彼女こそが、暴虐の領主ルドワイエであった。
10人の男を無力化した理由は魅了の魔術に近いが、ルドワイエは魔術行使を行ってはいない。
彼女はただそこにいるのみ。
美貌と生まれ持った王者の風格は、それ自体魔法とも言える事象を引き起こしていた。
「そなたらは邪魔者ではない。取るに足らない街の汚れでしかない」
ひじ掛けに片肘を突いて、つまらなさそうにルドワイエは口にする。
男達は聖女の生誕でも見ているように、涙を流して彼女の言葉を拝聴していた。
「しかし汚れは悪くない。この領土は滞りが無さ過ぎる。貧弱な土地に矮小な資源。取り立てて広くもなく、人的資源も脆弱。そのくせ人を奴隷のように勤勉に働かせることもなく、権利なるものを認める体たらく。
本来であればとっとと滅びる筈の虚弱な地。荒れ果てて領主を失い、やがて所有権を巡って戦争が起きる筈だった」
ルドワイエは話す内に少し楽しそうに声が弾んでいく。
「しかしライガーの奴が曲がりなりにもこの領土を生き永らえさせている。問題なく、恙なく、盛り上がりもしなければ、衰弱もしない。ただ静かに、死なない選択をし続けている。生きるのではなく、永遠の延命を望んでいる。
それはなんとも、つまらないじゃろう」
ルドワイエは残虐に口をゆがめた。
男達の中には恍惚を浮かべ、失禁するものも出始めた。
「ライガーが作った面白みのないシステム上に生きる領民の中で、僅かに発生した異分子が貴様らだ。貴様らは綺麗なこの街に湧いた汚れ、ゴミじゃ。ああ、別に特別そなたらを侮辱している訳ではない
人間というものは押しなべて下劣なものじゃ。そなたらゴミが特別下賎という訳ではない。むしろ我を目にする事ができた分、お主らは人として最上と言えるじゃろうて」
ルドワイエは高らかに笑い、男達は肯定のように咽び泣く。
「我に拝謁するとは得難き極上じゃろうて。その代償、命を持って支払ってもらうとするかの」
ルドワイエは右手を自身の前に掲げる。
彼女の指には魔力で編んだガントレットが出現し、指先には長く鋭い爪が光っていた。
5本の爪には鎖が付いており、手の甲を通ってルドワイエの袖の中に繋がっている。
「『ファンダメンタルファルス・パペットコア(人の人たる獣たる)』」
ルドワイエの爪が射出され、男達の心臓を貫いた。
男達は失われた心臓とルドワイエが鎖で繋がっている事に歓喜し、愉悦の顔に崩れていた。
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