20「不審」

 城は非常に大きく、囲う城壁も巨大だ。

 正面には立派な跳ね上げ式の扉があり、ルドワイエのような大事な来客があった際に利用される。


 しかし大きな扉を開けるには人も時間も必要で、日常的な用事で使う訳にもいかない。

 そのため城壁には正面の門とは別に、荷物搬入用の小さな扉が作られている。


 小さいと言っても荷馬車がそのまま通れるくらいの大きさはあり、扉の脇には警備のメイドも詰めている。


 ホワイト達が侵入しようとしているのはそちらの扉。

 食料搬入業者の商品に紛れて中に入ってしまう心積もりであった。


「いつも通り、荷物は中に入れておきますぜ」


 荷物を引いてきた男は、対応しているメイドに挨拶をし、いつも通りの処理に移ろうとする。

 馬を御して荷馬車ごと扉へ向かうが、今日に限ってメイドに止められてしまった。


「現在来賓があるため、城への立ち入りは禁止されております。申し訳ありませんが、荷物はここで搬入させて貰います」

「え、それは困る!」


 予想外の出来事に、男は思わず慌ててしまう。

 メイドは不審そうに表情を変えた。


「困るとは?」

「え、いや、こいつと荷物を置いていくってのは……」


 男は誤魔化すように荷馬車を引かせている馬を撫でた。

 ただそれでは根本的な解決にはならない。


 メイドは男の勘違いを正すように、にこやかに答える。


「いえ、メイドを何人か呼びますので、荷物はこちらで運び出します。お時間は取らせませんよ。馬車は持って帰っていただけます」

「あ、いや……」


 人を集められるが一番まずいのだ、と答える訳にもいかない。


「あー………と、実は……」

「実は?」


 怪しい態度を続ける男を見て、メイドの雰囲気が更に鋭くなる。

 この警戒時に面倒ごとを持ち込もうものなら、問答無用でたたっ切られかねない空気だ。


 メイドの階級はエルダーであり、普通の成人男性数十人程度なら1人で押し返す力がある。

 詰所には彼女のシスターも待機しており、問題があればすぐに救援を呼ぶ体勢になっている。


 ここで揉め事が起きてしまえば、全ての作戦が台無しになってしまう。


「じ、実はその……ちょっとアレな荷物もありまして、皆に見られるのはどうなのかな~と……」

「アレな荷物?」


 男は口から出まかせを言ってしまい、目が泳ぐ。

 ただメイドは思い至る節があったのか、慎重に考え込んだ。


「内容は?」

「いや…ちょっと……」

「搬入物の一覧に記載はないようですが?」

「書かない方がいい……感じでして……」

「誰の注文ですか?」

「いや……私が口にするのも憚られて、その……」

「…………失礼」

「っあ!!!?」


 メイドは突然荷物の布を剥ぎ取った。

 ビックリして飛び上がりそうになったホワイトと目が合い、お互いに硬直する。


「わ、私はホわぷぅ……!」


 ホワイトは突然の出来事に混乱し、なぜか自己紹介をしようとする。

 メイドは一瞬で距離を詰め、頬を挟むようにホワイトの顔を掴んだ。ホワイトは早業にあっけにとられ、何も喋れなくなってしまった。


 マコトが慌ててホワイトを助けようとしたが、ルーリエに肩を掴まれる。


「落ち着きなさいな」

「で、でも……」


 マコトが抗議の視線を送るが、ルーリエは黙って首を振る。

 メイドは暫く言葉を発さず、ホワイトの顔を値踏みするように眺めていた。


 殺意はないが、敵意を隠す様子はない。


「…………ライガー様かマリア様あたりか」


 メイドはボソッと口にすると、ホワイトの顔から手を離した。

 さっさと布を被せ直すと、何事の無かったかのようににこやかに男を促した。


「私は何も見なかったので、とっとと納品してきてください」

「へ、へぇ……」


 メイドはシスターに指示を出し、扉を開けさせた。


「食糧庫に納品したら、さっさと帰って下さいね」

「お、お手を煩わせて申し訳ねえ……」


 男はメイドの圧に怯えながら、開けられた扉を潜っていく。

 ルーリエ以外は自体が呑み込めず、不安げに顔を見合わせるばかりだった。

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