19「変装」

「どうですか!似合ってますか?」


 ホワイトがメイド服に身を包み、感想を求めてくる。

 元が美形なんだから何着ても似合うだろうと思ったが、そう言う事を聞いているのではないだろう。


 これから俺達はメイド隊に化けて城に入る予定だ。

 メイド服姿に違和感が無いかの確認だろう。


「メイド隊と同じ服だから、メイド隊には見えると思うけど」

「もう!かわいいかどうかを聞いているんです!」


 かわいいかどうかの感想だった。


「か、かわいいと思うよ」

「ありがとうございます!」


 ホワイトは自身の袖を持って腕を広げ、シワができていないかなどのチェックをしている。


「別にリリィはかわいいって、褒めて欲しいとかじゃないわよ?」

「ひゃ!?」


 俺の服装を整えていたルーリエに、突然耳に息を吹きかけられた。


「び、ビックリするので止めて下さい……そうなんですか?」

「かーわいい、気を使ったのね」


 ルーリエは俺の反応を見て笑っている。

 顔が近いので温かい息が当たってもぞ痒い。


 そんな俺達のやり取りを見て、ホワイトは心外そうに頬を膨らませた。


「メイド隊はこの領土のかわいい子たちを集めて作られています!だから潜入するには、かわくなっていないといけないんです!」

「あ、なるほど……」


 現在俺とホワイト、ルーリエの3人は、布を被せられた荷馬車に載せられている。

 城に食べ物を納入する荷馬車に紛れて、侵入する作戦なのだ。


 その侵入方法自体に異論はないが、ホワイトとルーリエは勿論、何故か俺もメイド服を着せられている事にはまだ納得していない。


「これ、俺もメイドの恰好をする必要ある……?」

「あります!侵入するからです」

「コッソリ潜入するんだから、メイドに変装する必要はないんじゃ?」

「万が一見付かった場合のためです!」


 万が一見付かったら、メイドの恰好をしていてもバレる気がする。

 いや、どうなんだろ?


 メイドは人数は結構多いから、意外にお互いの顔は把握していない可能性もあるか。


「うふふ、どうなのかしらね。でもマコトに化粧するの楽しいし」

「あ、遊ばないで下さい」


 ルーリエさんにからかわれて調子が狂ってしまう。


 ライガー様は中性的な顔つきをしているので、化粧をすると美人にもかわいらしい感じにもなるらしい。


 筋肉も非常に柔らかくて女性的ならしく、体つきもごつくない。

 少しヒラヒラのあるメイド服を着れば、背の高い女性として通る様だった。


 ――ライガー様がと言うより、もう、俺が、と言ってもいいのだろうか?


 それでもメイドへの変装はどうかとは思うのだが、素顔で潜入する訳にはいかない。

 化粧で顔を変えて貰えるのは実際助かるので、強く反発も出来なかった。


「っ……城に着いたようです!静かにしましょう」


 そうこうしていると荷馬車が停止し、荷物が揺れた。

 ホワイトが声を潜めて注意してくるが、彼女のかわいらしいけど張りのある声が一番聞こえ易いと思う。


「いやー、遅くなってすいません。納入に来ましたー」

「いつもご苦労様です」


 被さった布の外から、荷馬車を引いてきた男と対応するメイドの会話が聞こえてくる。

 男も奇想の断崖のメンバーで、実際にいつも取引をしている食料問屋らしい。


 この時点で怪しまれる事は無いと聞いている。

 ……のだが、布の外の会話は少し不穏な空気を醸し出していた。

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