18「奇想の断崖」
ホワイト達に案内されたのは寂れた酒場だった。
彼女達は『奇想の断崖』を名乗るレジスタンスで、ここが彼女達のアジトらしかった。
俺とホワイトは4人掛けのテーブルに向かい合うように座っている。
俺達の周りには、『奇想の断崖』のメンバーらしき男達が立ったまま囲んでいる。
店の中にいるのは15人くらい。
先程槍を持って俺を囲んでいた人たちもいる。
そんな敵地で何をされているかというと、ホワイトの演説を聞かされていた。
かいつまんで言うと、彼女達の目的は民主による自治の獲得。
ライガー様もメイド隊もルドワイエも排して、民主主義を獲得するつもりらしかった。
今回のルドワイエ襲撃は、その決意表明のようなもの。
ただ実際に襲撃を行おうとする派閥と、まだ機を待つべきだと言う派閥に別れていた。
今回は襲撃を行うべきだとする派閥やブラック達が先行してしまい、連携が取れないままちぐはぐな行動になってしまったとこの事だ。
「現実的ではないよ」
アジトで彼女達の理想とやらを語られて、出た感想がこれだった。
「それってどういうことですか!」
4人掛けのテーブルの向かいに座っていたホワイトが立ち上がる。
俺の周りを立って囲んでいる男達も、不快な顔を向けてきた。
(それをしたって、他の領土の介入を招くだけだ。メイド隊がいるから、他の領土は手を出せないんだ。それを排してしまったら、この領土に対抗手段は無いよ)
(そもそも彼女達は不満を言うだけのお遊びサロンみたいなものだ。なんたって宿敵だと言うライガー様の顔すらよく分かってないんだから)
何て言いたくなったが、別に彼女達を怒らせても良い事は無い。
「そんな事よりもブラック達を助ける話をしたいです」
「それは!……そうですね」
ホワイトは言い足りない顔で食い下がろうとした。
理想を理解しない目の前の愚か者を、言説を以て分からせたいとでも言いたげだ。
しかし仲間を助けないといけないのは、ホワイト達も同じはずだ。
「ブラック達は既に負け、大半が捕まったそうです。早く助けに行かないと!」
ホワイトは悔しそうにテーブルを叩いた。
早く助けに行くと言うのは、感情による早計だとは思う。
ただ俺もホワイトに賛成だ。
メイド隊は全員がCクラス以上だと言われているが、実際はそんなことは無い。
Cクラスを超えているのはエルダー以上に限られており、ココンやそれ以下の戦闘力のものが殆どだ。
それでも全員がC以上と言われているのは、訓練による特殊な戦闘法や連携、着ているメイド服や装備に拠るものが大きい。
特にメイド服は無理矢理バフを掛け、戦闘力をCまで跳ね上げる効果がある。
Cまで行けば歴戦の猛者と言われる世界で、この効果は非常に強力だ。
しかしそれ故に反動も大きく、一度戦闘をするとしばらくまともに動けなくなってしまう。
つまりブラック達と戦った直後では、普段よりも動けるメイドは少ないに違いないのだ。
それが回復しない内にブラック達を助けに行くのは間違いではない。
――襲撃するなら今しかないだろう。
「う……」
右目に熱を感じて、反射的に右手で抑える。
ホワイトに心配されるが、大丈夫だと返した。
「ブラックの事が心配ですし、俺は手助けを惜しみません」
「それは助かります!」
ホワイトが複雑な表情ながらも、俺の提案に頷く。
ただその他のメンツが不満そうだった。
「そいつは信用ならない」
「そうだ、そうだ」
槍を持って俺を囲んでいた男達が、やんやと声を上げた。
「いーんじゃない?この人強いし。ねぇ」
「っ!!?」
突然両肩に手を置かれ、耳元で囁かれる。
扇情的な声と甘い匂いで、思わず硬直してしまった。
彼女はルーリア。
ピンク色の長い髪で、背は少し高め、大人の色気のある女の子だ。
俺が胸を揉んで口に短刀を突っ込んだ子だ。
「けどルーリア、そいつはお前を人質にしたんだぞ!」
「あなた達が情けないから、6人もいて良いようにされたんでしょ」
「う……それはそうだが!」
ルーリアに言い返されて、男達は黙ってしまう。
「私強い男の人って、良いと思うの。イケメンだしねー」
ルーリアに後ろから頬を撫でられる。
彼女は俺が短刀を口に突っ込んだ時、何故か知らないが刃先を妖艶に舐めていた。
何故か知らないと言うか、なんか発情していた気がする。
……すごく苦手なタイプだ。
「人質になったルーリアが彼の事を気にしていないのなら、誰も文句はありませんね?正直今は少しでも戦力が欲しいのです」
ホワイトが店の中を見回す。
男達は文句を言おうとしていたが、反論する程の材料は持ち合わせていない様子だった。
「では協力をお願いします。私は『奇想の断崖』のホワイトリリィ、経理担当です!えーと……」
「マコトです」
「よろしくお願いします、マコトさん!」
差し出されたホワイトの手を握って握手する。
経理担当だったのか。偉そうだからリーダーかと思ってた。
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