13「身を焦がす怨恨」

 南西にある商業の町。

 北西にある工業の町。


 2つ町の間にはこの島に似つかわしくない立派な石畳の道がある。

 島の入り口の城門から、城の入り口まで続くメイン通りだ。


 件の領主が乗っている馬車が、メイドや兵に守られながら城へと進んでいた。

 人々が道で土下座するなんて事は無いが、大名行列のような物々しさと派手派手しさだった。


「こんな時期にパレードなんて、呑気なもんねー」


 ブラックはメイドを眺めながら、皮肉のように呟いた。


「この町で何かあったの?」

「んー、この町と言うか、全体的な不況とか?」


 当たり障りなく尋ねると、ブラックも支障が出ない表現を用いた。

 特筆すべきは何もなく、積もり積もった不満が元なのだと理解する。


 実にもならない話をしていると、いつの間にか領主の馬車がすぐそこまで来ていた。

 立派な装飾のされた馬車の窓は開かれており、中にいる領主の姿が目に入る。


 ―――決して忘れはしない憎たらしい。


 美しい顔の女領主が、つまらなさそうに沿道に手を振っていた。


「っ!!!!」


 胸の奥から、誰のものか分からない、業火のような怒りが燃え上がる。

 右目が真っ赤に染まり、視界が何も写さなくなる。


「うぐ!!」

「マコト!?」


 足に力が入らず、思わず膝を付く。

 ブラックが慌てた様子で、背に手を当ててくれた。


 ―――許さない許さない許さない許さない許さない

 ―――しねしねしねしねしねしねしねしねしししし


 炎の如き怨嗟に鼓膜が爛れ、脳が焼け焦げていく。

 思考は熱で消え失せ、意識は真白の夢の中に消失した。


「きゃああああああああああああ!!」


 方々から悲鳴が上がる。

 反射的に顔を上げると、残った左目が信じられない光景を写していた。


 俺から放出された女の形をした炎――

 鬼姫の怨嗟の残響が領主に襲い掛かっていたのだ――

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