12「不穏なセレモニー」

 俺が今いる浮島は、それ全部がライガー領になっている。

 ただ逆に言えば、ライガー様の領土はこの浮島だけである。


 この国にはライガー様以外にも沢山の領主が居り、様々な土地を統治している。


 ライガー様は王族だけあって、高貴な土地である浮島を任されてはいる。

 ただ高貴なだけで、恵まれた土地と言う訳ではない。


 大地から離れているので農業は厳しいし、鉱山資源も殆どない。

 交易や通商の要地ではないので、外貨を稼ぐのも難しい。


 メイド達の戦術的価値と工業によって、何とか国が成り立っている状況だ。

 国全体に対する影響力は低く、存在感も薄い。


 そんな浮島に、今日は有力な領主が訪ねてくるらしい。

 かなり好戦的で独裁的な領主で、隙あらばライガー領にも攻め込もうとしているとの噂すらあるらしい。


 本来なら関わりたくもない相手だろうが、国力差を考えると無下に断る事も出来ない。

 表面上だけでも友好を演出するために、仕方なく歓迎のセレモニーを行うらしかった。


「あそこねー。ウジャウジャ人がいるわ」

「そうだね。だから町に人がいなかったんだ」


 パレードが行われる大通りには、既に人だかりができていた。

 所々警備のためのメイド達が立っている。


 メイドの数は多くないが1人1人の戦力を考えれば、民衆が暴動を起こしても抑え切れる規模の警備体制と言えよう。

 改めて考えれば民衆は自分達の周りを、いかめしい軍隊や兵器が囲っているのと変わらない。


 しかし民衆はアイドルグループでも見る様に、メイド達に無警戒で熱い視線を送っていた。

 メイド達は本当に全員が全員呆れる程にかわいいのだから、気持ちは分からなくもなかった。


「へーいわボケした人が多い事」

「ま、仕方ない事だよ」

「ふーん」


 ブラックはつまらなそうに口を尖らせる。

 それには構わず、俺はメイド達に見付からない様に、ひっそりと人混みの後列に紛れた。


「あ、ちょっと!」

「どうせなら、前で見ましょー」


 ブラックに背中を押され、最前列まで連れていかれてしまった。

 道の脇には等間隔でメイドが立っているので、顔を見られないか冷や冷やする。


 後ろに戻りたかったが、それを言い出すのは不審だろう。

 またメイド達に不機嫌な視線を送るブラックに、抗議するのは躊躇われた。


「今日来る領主って、戦争をしにしているの?」

「戦争まではいかないと思うけどなー。内政的に、この土地を奪おうとしているだけでしょ」

「そう……そうなったら、ここは大きく変わるのかな?」

「難しい話ねー」


 何となく話題にすると、ブラックは少し考え込んだ。


「新しい領主に追加の税を掛けられたり、低開発の開発を進められたり、不利益を被る可能性は高いわよね」

「それは……まぁ」

「でも税が高くなったとしても、新しい領主の辣腕で国力が上がってこの領土が何倍も豊かになれば、私達の生活は良い物になっていくって訳」

「そうなりそう?」

「わっかんないわよ、未来の事は」

「それはまぁ、そうだね」


 ブラックは歯切れの悪い答え方をする。

 俺もどうしていいのか分からず曖昧な音を零すだけ。


 人混みを見回してみると、民衆の表情の違和感に気付いた。

 機晴らしにパレードを見に来ている訳でも、戦争を仕掛けるかもしれない敵を忌み嫌っている訳でもなさそうだった。


 彼らは退屈し、不平等を求めているように感じられたのだ。


「嫌な感じだね」


 不穏な空気に肺が痛む。

 俺は無意識にフードを目深に被り直していた。


 ブラックが視線を向けているのを感じたが、パレードが気になっている風を装って気付かないふりをした。

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