6「メイド達の秘め事」

「お姉さま、今晩って予定開いてますか?」

「予定?」

「ええ。街に素敵なご飯屋さんが出来たって話題らしくって、一緒に行きません?」

「あー、オシャレらしいねー。んー、でもルドワイエ様が来るから、その準備しないといけないらしくって」

「お姉さまが?給仕のお手伝いですか?」

「んーん、警備の方。彼女、マスターとあまり仲良くないからねー」


 カレンとカレンをお姉さまと呼ぶ女の子が、非常に乙女っぽい会話をしている。


「え!カレン様は警備に回られるんですか?」

「すごーい、さすがBクラス」


 そして小さな女の子2人が、きゃっきゃと盛り上がっている夢かわ空間。


 何だこの状況は?

 幸せすぎるんですが。


 4人のメイドさん達がベッドに腰掛けたりベッドに座ったりして、ワイワイ楽しそうに話している。

 ベッドに寝転ぶ俺を囲む彼女達は、仕事をサボって駄弁りに来ているらしかったが、別に咎める事でもないだろう。うん、たぶん。


 1人はカレンで、もう1人はカレンの『妹』のココンという真面目そうな黒髪の女の子。

 他の2人はココンの仲の良いメイドのリリとルルというらしい。


 ココンはカレンの妹と言っても本当の妹ではなく、立場的なものらしい。


 メイドはメイド長が一番上に位置し、次に副メイド長が置かれる。

 メイド長はセフィ1人で、副メイド長は複数人。スレイヤーちゃんやオンスロート、マリアがこれに当たるらしい。


 その下は一般メイドの扱いだが、一般メイドの中でも戦闘に優れた者をエルダーと呼び、エルダーが指定した見込みのある者を妹(シスター)と呼ぶらしい。

 基本的に妹は1人しか指定できず、その妹のみ自身のエルダーを『お姉様さま』と言うとの事だ。


 戦闘についてはココンがDでリリとルルがE。


 一応一般人よりは遥かに強いっぽい口ぶりではあった。

 というか通常は歴戦の猛者が、生涯を掛けてCに辿り着けるか否かというレベルらしい。


「カレンはAになるのは難しいの?」

 何となく話の流れで、そんなことを聞いてみた。


「もー、またマスターが意地悪を言う!」

 カレンは拗ねたように言い、頬を膨らませてしまった。


 マズい事を言ってしまったのかと慌てたが、ココンがフォローしてくれた。


「そうやってお姉さまは、マスターを困らせる言い方をして。マスターはお姉さまに見込みがあると思っているから、言ってくれてるんですよ」

「えー、でもAクラスって、ガチの英雄クラスじゃん」

「お姉さまは英雄に成れる人だってことですよ」


 ココンはどことなく寂し気に言った。


「カレン様がAクラスになれば、副メイド長も見えてくるんではないですか?」

「きゃー!それは素敵」


 リリとルルは無邪気に楽しそうだ。


 俺はと言うと副メイド長4人の滅茶苦茶さを思い出してしまった。

 どうやら彼女達は1国に1人いるかいないかレベルの強さらしかった。


 いや―


「でもスレイヤー様はそもそも」

「BB-でしたっけ?」


 リリとルルは複雑そうに顔を見合わせる。


 ―どうやらスレイヤーちゃんだけは、立場に対して実力が一歩か二歩足りていないらしかった。


「リリ、ルル。失礼ですよ」

「あ」「ごめんなさい」


 リリとルルはココンに窘められる。

 彼女達も性格が悪い訳ではないらしく、素直に反省して見せた。


 しかしカレンを慕うリリとルルからすれば、それほどランクの変わらないスレイヤーちゃんが副メイド長であることに不満はあるらしかった。


 ココンも強くは否定しない所を見るに、スレイヤーちゃんが微妙な立場なのは間違いなさそうだ。

 彼女は副メイド長の中で唯一助けてくれたし、そう言う忠誠心的な部分で特別扱いを受けているのだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る