4「ステータス」

 般若の面を付けた女性が、城の中で人を殺し回っていた。

 剣を奪い首に突き立て、槍を奪い腹を裂き、銃を奪って頭を撃ち抜き、自らの拳で心臓を打ち破る。


 切り裂き、押し切り、もぎり取り、握り潰し、殺し、屠り、屠殺して。

 窒息させ、失血させ、欠損させ、損壊させ、命の形を失わせていく。


 弟を辱められた怒りに震える彼女は、ただひたすらに目に付く者を殺し尽し、惨劇を撒き散らし、悲鳴を残響させ。

 国の全てを亡骸に貶めた彼女は、やがて鬼姫と呼ばれるようになった。


 そんな、記憶にない悪夢を見た。



「う…ん……?」

 目覚めは最悪だった。


 目を開けているのに視界がぼやけ、右の眼球が燃えるように痛い。

 反射的に右目に力を籠めると熱が一気に上昇し、目の前が炎のように揺れ出した。


「痛いっ!?」

 右目を押さえ、ベッドから転がり落ちる。


 落ち着け!力を入れて痛みが増したのなら、力を抜けば痛みは引くはず。


「ふ……ぅふ~……」


 ラマーズ法の要領で、ゆっくりと息を吐き出していく。

 それに伴って力……というよりも魔力?が右目から抜けて行き、痛みや視界の揺らめきは減少していった。


「今のなんだ?」


 パワーE

 スピードC

 耐久力F

 魔力G

 魔力障壁G

 魔力干渉力G

 総合F


 自分自身に対して、そんな表示が出ていた気がする。

 ステータスと言う物だろうか?


 ただ通常AやSが一番高くて、G位が一番下に設定されている。

 それを考えると俺のステータスはゴミの様に低いのではなかろうか?


「いやいや。まだ低いと決まった訳では……」


 転生前に得た知識が、転生後に適用されるなんて限らない!

 現実が受け入れられなくて屁みたいな理屈をこねていると、扉の向こうから聞いたことのある声が入ってきた。


「マスター、入りますよ」

 断りを入れるセフィの声。

 入って大丈夫だと答えると、セフィともう一人メイドさんが入ってきた。


 セフィは相変わらず芸術のように美しい。

 一緒に入ってきた娘は、肩に付かない位の栗色の髪で、表情も仕草も女の子っぽくて非常にかわいらしかった。


 パワーAA

 スピードSS+

 耐久力B+

 魔力B+

 魔力障壁B

 魔力干渉力G

 総合AAA


 パワーB+

 スピードC+

 耐久力B

 魔力D

 魔力障壁C

 魔力干渉力D

 総合B


「うえ!?」


 右目に力を籠めると、2人のステータスが表示された。

 総合AAAがセフィで、総合Bがかわいらしい女の子の物だ。


「どうかされましたか?」

「い、いや!急に入ってきたからびっくりしただけで」

「……そうですか、それは失礼しました」


 セフィは頭を下げ、持ってきた書類などを執務用っぽい机に置いた。


「体がマシな時に書類の確認をお願いします。一通り確認してあるので、不備はないかと思いますが」

「あ、はい……仕事ね」


 できる訳ないんだが。


「体調が良い時で大丈夫ですので。あとカレンは気付いていないようですが、無闇に邪眼を使うのはお止めください」

「あ、はい。ごめんなさい」


 恐らく右目でステータス確認をしたことを咎めているのだろう。

 ステータスを覗き見ると言うのは、失礼に値するのかも知れない。


 というか、魔力を感知してステータスの覗き見を察したのだろうか?


 さすがは総合AAA。

 ……間違いなくSやAが上で、GやFが下っぽい。


「では私は仕事が残っているので失礼します。何かありましたらカレンに言いつけて下さい。部屋の前に控えさせておきますので」

「あ……うん」


 セフィは一礼し、音もなく部屋から出て行った。

 セフィと一緒に来た女の子…たぶんカレンは、笑顔でこちらに手を振った後、セフィに続いて部屋を出た。


 そのままセフィは何処かへ行き、カレンは残って部屋の前に立っているらしかった。


「用があればカレンにって言ってたけど、要するに俺が逃げないのか見張っているんだろうな」


 大きなため息を吐く。

 カレンはそれ程背の高くない、かわいらしい女の子だ。


 しかしステータスを見るに、俺が無理矢理突破できる相手ではなさそうだった。


「どうしたものかな?」


 俺は溜息を吐き、ベッドから立ち上がる。


 俺がライガー様じゃないと確信されたら殺されかねない状況だ。

 ……もう大分疑われているようだし、寝ている場合じゃない。


 せめてライガー様らしく振る舞えるヒントは無いかと、セフィが持ってきた書類でも眺めてみる事にした。

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