3「謎の声」

「はぁ……どうしよう……」


 俺はベッドに寝転がり、何をするでもなく部屋の中を眺めていた。


 どんなホテルのスイートよりも、広くて豪華であろう部屋。

 家具は少なく、だだっ広い印象が強い。


 誰でもない俺が転生して王子になったと言うのは、はっきり言って実感が無い。

 しかし実感が無いからと言って現実逃避してばかりもいられない。


「スレイヤーちゃんにも怒られちゃったし」


 マリアに襲われた時に助けてくれた背の低い少女。

 スレイヤーと呼ばれた彼女は、俺の情けない姿を見て「ちゃんとして下さい!」と叱った。


「ちゃんと……か……」


 それはライガーらしく振る舞えと言う事だろうか。

 無茶を言う。


 けれども泣き言ばかりも言ってられない。

 俺は見知らぬメイドに首を切られそうになり、ギリギリのところで助けられた。


 助けてくれたスレイヤーちゃんにまで見放されたら、ただ殺されるのを待つ無知で無力な幼子でしかない。

 まあちゃんとした所で、不思議な力が使える訳でもないけど。


「いや、待てよ?」


 黒髪2つ結びの初撃を防いだ時、自身の腕から炎が迸った。

 それが曖昧な女性の形になり、剣を振るって助けてくれたのだ。


「あれ……なんだ……?」


 魔術とか魔法という奴だろうか。

 漫画やアニメでしか見たことは無かったが、それを自分も使えるのだろうか?


「使えるんだろう、きっと……」


 俺を殺しに来たメイドもスレイヤーちゃんも、魔術だか魔法だかを使っていた。

 なら俺もそれを使えてもおかしくはないだろう。


「こう……なんだろう?」


 掌に魔力を集める感じ?と言うのをやってみた。

 僅かに手が暖かくなる気はするが、力を込めているので体温が上がっただけのような気もする。


 そのまま暫く力を籠め続けていたが、何も起きる筈もなく。

 腕が痛くなってきたので、諦めてベッドに体を投げ出した。


「おや?もう止めるのかえ。見ていて滑稽で楽しかったのじゃが」

「っ!?」


 突如頭の中で声がして、慌てて飛び起きた。

 周りを見回しても誰もいない。


 魔術で透明になっているのかと思い、立ち上がって警戒する。


「一丁前に身構えているのかえ?お主には何もできんじゃろうに」

「う…そうだけど……」


 痛い所を突かれたが、かといって何もしないのは違う気がした。


「まあ良い。手助けするつもりじゃからな」

「……本当に?」

「なんじゃい、わしが信頼できんという顔じゃな?」

「そりゃ……顔も見えないし」

「生意気な餓鬼じゃ。無力なお主に信頼を得る権利などないわ。出来るのは精々、わしに縋り付くことだけじゃろうに」

「う……」


 言われてみれば、力関係はそんなものだ。

 この声が俺を騙したり利用したりしようとしているのであっても、正直俺にデメリットは無い。


 何かあっても失うのは命くらいだろうが、何もしなくてもメイド達に殺されてしまうかもしれないのだ。

 声の正体や真意は探ってみたいが、とにかく機嫌を損ねないのが最優先事項だろう。


「助けて下さい」

「素直じゃのう。初めから弁えておればよいのじゃ」


 声は偉そうに言うが、偉くないのに偉そうに言うなとは言えない。

 尊大な物言いには、裏付けがあるように感じてしまったからだ。


「とは言え、別に大したことをする気はない。目をやるから、自分で自分を助けて見よ」

「目?」


 声が言うと、右目が火にくべられたように熱くなった。

 いや、視界が炎に覆われている。


「うわああああああああああ!!」


 熱い熱い熱い熱い熱い熱い痛い痛い熱いいたいあついいいたい!!!


 精々命を取られる程度だと思った俺が甘かった。

 地獄のような苦しみの先で声は笑い、俺の意識は痛みによってプツンと途切れてしまったらしい。

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