破壊衝動
夏休みが安心の時代だったのは前半だけだった。後半はむしろ執行を待つ死刑囚の気分で過ごした。
憂鬱が加速すれば、破壊衝動も同期した。リベレイト・プランは大幅な見直しを迫られた。単なる逃亡計画に過ぎなかったそれは、学校施設および公共交通機関、軍事主体への攻撃及び破壊行為を含む、半ばテロリズムの様なものになっていた。
それに耐えうる設定がインナービーストには付加された。10式戦車の
しかし怪獣、インナービーストに仮託した破壊衝動をいくら育てても、現実は現実。
「今日から学校でしょ」
「ごめん、お腹痛い。学校に連絡しといて。」
「明日は行くのよ、不登校になったら困るんだから。」
「はい〜」
そうやって不登校になった。誰が不登校になります、って言いながらなるんだよ。結果として2ヶ月間の虚無を過ごした。
この虚無の時間が夏休みにその雛形ができていたリベレイト・プラン改に具体性を与えた。英語の予習ノートはもうすでにその体を失っていた。赤線は英文の下ではなく、地図に引かれ、斜線はパラグラフのまとまりを表しているのではなく、交戦予想地域を示していた。
「フェイズ1。インナービーストは校舎に右足をかける形で現界する。クラスの前半分を上から踏み潰す形で破壊する。
フェイズ2。避難指示が出る間もなく逃げ惑う生徒に逆らって、降りてくる首に乗る。
フェイズ3。碧海市鉄道の路線を名古屋方面に破壊させながら交わる幹線道路を破壊。移動手段を寸断し、県庁を占拠し、全世界と交渉に入る。」
そして私は全てを始める儀式すら定めていた。
「このノートの端にはパラパラ漫画がある。怪獣の足が上から降りて踏み潰していくアニメーションが描かれている。それを黒板に向けて再生し、フェイズ1と呟く。再生が終わる頃にはパラパラ漫画は現実に置換される。」
予行練習もやった。
パラパラパラ
「フェイズワン!」
いつしか、この種の妄想を厨二病と自嘲する余裕すら私からは失われていた。
それ以外は思考を未来に飛ばすことばかりを考えていたので特に書き残す内容もない時代だった。せっかくだから不登校がどうやって終わったかを書いておこうと思う。
「おい、今日行かなかったら留年だぞ」
「ごめん、お腹痛い、学校に連絡しと」
「おまえ、今日行かなかったら施設に送るぞ。」
(布団をかぶる)
(数十分後)
「うぁあああああああああああああ」
(制服に着替えた私)
「行く。」
1月のある雪の降る日、私は久しぶりに学校に行くことになった。急なことで、たいして準備もしていなかった。この準備不足が、行き場のなく育てた破壊衝動と誇大妄想の発動のトリガーとなってしまうということを、その時の私は知らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます